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2014年2月

文化的距離を考える

        ――『日本人カースト戦記 ブーゲンヴィリアの祝福』番外編

 たまには、ちょっと理屈っぽい話を書いてみる。ぼくたち一家は、日本→インド→日本→ドイツ→日本と住んできて、ある意味、それぞれの文化に振り回された感がある。

 乳飲み子を抱えインドに赴任したときは、がーんという強烈さで文化の決定的差を思い知らされた。絶望的な貧困は目と鼻で感じる。たとえば、半裸の子どもとぼろぼろの衣服を身にまとった母親が、網膜に焼き付く。何十日も体を洗っていないのではないかと思える体臭に襲われる。

 ヒンドゥー教寺院に行くと、スピーカーから流れる大音響のマントラに迎えられる。カースト最上位のインド人助手バルドワージに言わせれば、ヒンドゥー教は「信徒の五感に訴える宗教」なのだった。

 まず、大音量で耳に訴え、きつい香料で鼻に訴える。極彩色の寺院とご神体で目に訴え、寺院の建物やご神体に触り皮膚に訴える。そして、スパイスの効いた供物が舌に訴える。

 すべてが強烈で、日本の寺院の静謐と真反対にある。仏教がインドで生まれ、仏教はインドでヒンドゥー教の一派と考えられていることが信じられなくなる。

 インドでは、ヒンドゥー教だけでなく社会そのものが強烈だ。ふた昔前ニューデリーで3年間暮らし、5年前に再訪して感じたのだが、街はいまも昔も「お年寄りや体の不自由な人に優しい」というコンセプトの対極にある。バリアーフリーなど聞いたことがないし、路線バスでも飛び乗り飛び降りはふつうだ。

 タクシーから降りて料金を払うとき、客がわれわれ外国人だとメーター通りの額ではまず受け取らない。たいてい「このメーターは壊れているから、○○ルピーだ」と言われた。ときには「子どもが難病に罹っていて…」などと、運転手が泣き落としに出る場合もある。こちらは、智恵を絞り心を鬼にして対抗しなければならない。

 日本へ帰ってきたらきたで、しばらくは違和感を感じた。議論をできるだけ避け、言いたいことも婉曲的に言わなければいけない。ののしるなどすれば、人間関係が決定的に悪くなる。インドではそんなことはない。

 顔の平板な何とへらへらした国民だろう、と思った。渋谷のスクランブル交差点に行くと、そんなニッポン人が何百人と一斉に向かってくるのでちょっと怖くなる。でも、日本人だから、いつの間にか日本仕様の生活に慣れた。

 そして、ドイツへ行った。議論、口論の日々がまたやってきた。それでも、大声で口角泡を飛ばすインド人の話しぶりとはややちがう。スーパーに行けばさすがにドイツで、日本にもない便利な製品をいろいろ売っている。ドイツ製ソーセージは言うまでもなく、フランス産ワインやスイス産チーズなどがリーズナブルな価格で買える。

 文化の差はもちろんある。フランクフルトの日本人板前さんが言っていた。「ドイツの海でも、結構いい魚は捕れるんです。でも、卸市場を通して店に仕入れると、鮮度が極端に落ちていたりする。何でだろ、と思い漁港へ視察に行ったら、鮮度抜群のイワシを手が冷たいからと言ってぬるま湯でさばいていたりする。魚は鮮度が命なんだという日本では当たり前のことを教えてあげないとだめなんです」

 だが、こういうことはごく一部だ。街は清潔で路線バスはお年寄りや体の不自由な人に優しく、タクシーの運転手が料金を適当につり上げるなんてこともない。それどころか、目的地に着けば、運転手がさっと車を降りて重いスーツケースを運んでくれる。

 日本へ帰り、タクシーに乗ったらわざと遠回りして売り上げを稼ぐやつがいた。重いバッグを運んでくれることもない。ある年、世界各国の特派員アンケートで「世界でもっともタクシーのレベルが高い都市」として東京があがった。しかし、ぼくの経験ではそんなことはない。ドイツのタクシーが世界一だろう。運転手が親切で料金も東京より安く、車は95%以上がベンツなのだから!

 海外2か国で生活体験をし、ぼくは自然に「文化的距離」という言葉を思いついた。試しにヤフーで検索してみたら、そのものずばりの言葉はネット上にほとんどなかった。例外的にあったのが、こんなブログの一節だ。

 <身体的な距離感の他に、文化的な距離感というのもある。大切なプレゼントを渡すなら、相手の胸の前が原則であるにしても、日本文化固有の和室で贈り物をするのに、その方法は使えない>

 <距離感を決定する、より重要な要因は文化的な親近感でしょう。ドイツのアメリカ化は行き過ぎだと嘆くドイツ人が大勢います。近年では、ハロウィーンやバレンタインデーまでドイツに入ってきました。一方、文化が大きく違う地域、例えば南米諸国では、アメリカは一般的に嫌われがちで、アメリカ化も進んでいないそうです>

 インドを再訪したとき、19年ぶりに合った親友プラメシュに、日本とインド、日本とドイツの「文化的距離」の差について私論を語ってみた。日印のほうがずっと遠い。英語でうまくぼくの意図が伝わるかなと心配だったが、ちゃんと分かってくれた。彼はアメリカに留学して、英米文学のPh.D(博士号)を取った。さまざまな国の出身者と友だちになり、ぼくの言うcultural distanceを身をもって経験していた。

 もっとも、プラメシュとぼくは、文化的距離が奇跡的に近く、だから親友になった。

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寒い! 地球は小氷河期に突入したのか

 ナイアガラの滝が凍ったのは2013年末だった。すごいことだなぁ、とニュースをみて思ったが、まだ、よそ事だった。しかし、年が明け、日本列島も大変なことになった。

 東京都八王子市に住む友人によると、約60センチも積もり玄関から出られなかったという。群馬県前橋市のニュース映像をみるとまるで豪雪地帯で、これまでの観測史上最高値の倍も積もった。143センチの積雪を記録した山梨県富士河口湖町をはじめ、各地で孤立した人びとが後を絶たなかった。

 「地球は温暖化しているというのに、この大寒波はおかしいんじゃないか」。北米でもヨーロッパでも日本をふくむ北東アジアでも、素朴な疑問を抱いている人は多いだろう。

 そんな折、ジャーナリスト田中宇氏が、『地球温暖化の終わり』というタイトルのメールマガジンを配信した。こんな書き出しで始まる。

 「昨今の世界的な大寒波の原因について、太陽の活動が劇的に低下していく傾向の始まりであり、世界はこれから17世紀後半に起きたような『小氷河期』になる可能性が高まっているという指摘が、学者の間から出ている」

 このメールマガジンは、毎回、参照した世界各国のニュースサイト記事、動画サイトのURLが出典として張りつけてある。田中氏は、たいてい、世間の常識を超えた大胆な説を展開するので、ほんとかなぁと思う人は出典に直に当たってみるといい。すべて英文ではあるが。

 そこで、最初に出典とされたあるニュース記事を開いてみると、2014年1月19日付けで、「太陽の活動が1世紀ぶりに急低下しており、科学者たちを困惑させ新しい小氷河期のはじまりとなるかもしれない」とある。

 イギリス南部オックスフォード州にある研究所のリチャード・ハリソン所長は、BBC放送にこんなコメントをしている。「私は、30年間、太陽物理学者をしてきたが、こんな状況を一度も見たことがない」「太陽がこんなに不活発になったのは、約100年前以来のことだ」

 太陽は11年周期で黒点の動きなどが変動し、いまは活動のピークにあるというが、そのピークの高さが異様に低いそうだ。

 田中宇氏は、この話をまとめて、「これから太陽の活動が低下していくと、マスコミや政府が喧伝する『地球温暖化』とは逆の『地球寒冷化』『小氷河期』が起こるという分析が出ている」とする。

 アメリカ政府などは、北半球のこの冬の大寒波について、「北極の気流の渦=極渦が引き起こしており、それは地球温暖化のせいによる」と発表している。この「地球が温暖化すると地球は寒冷化する」という、一見、訳の分からない学説を聞いてすぐに納得できる人は、それこそ地球上に何人いるだろうか。

 アメリカ議会はもともと地球温暖化について懐疑派が多かった。その状況でも、オバマ政権は温暖化の元凶とされる二酸化炭素排出を抑制するため、炭素税を導入しようとしている。田中氏は、温暖化キャンペーンは「政治目的の歪曲だろう」とみている。

 そもそも、地球温暖化説はいつはじまったのだろうか。『ナチュラルニュースNatural News』というサイトには、2013年5月26日付けのこんな記事が載っている。「すでに1988年、ジェームズ・ハンセン博士が地球温暖化を声高に主張し、人為的な気候変動ヒステリーの引き金を引いた」

 地球規模で展開されている温暖化防止キャンペーンを、記事は「ヒステリー」と呼んでいる。事実、地球の平均気温は、すでに1997年から横ばい状態がつづいているそうだ。

 田中氏は言う。「政府やマスコミ、学界が喧伝する『地球温暖化人為説』は、恣意性の高いコンピュータモデルしか根拠がなく、科学的に正しい可能性がかなり低い」

 『ナチュラルニュース』の原文をよく読むと、NASAの気候研究部局は、従来、温室効果ガスが地球温暖化の原因としてきた。だが、おなじNASAのラングレー研究センターは、2013年、「温室効果ガスは地球を冷却化している」という最新データの分析結果を発表した。地球の気候のことは、それくらい難しいようだ。

 『小氷河期』と呼ばれた時代は1645年に始まり、ヨーロッパを中心に寒冷化した。バルト海やロンドンのテムズ川が凍結したという。これが長くつづいた。

 1980年代から1996年までに観測された地球の気温上昇いわゆる温暖化は、どう考えればいいのだろう。「地球の気候変動の歴史を見ると、大きな寒冷化が来る前に、小さな温暖化の時期があることが多い。今回もそれだろう」とする研究者もいる。

 田中氏はこう断言する。「もともと地球温暖化問題の本質は、経済が成熟化して環境技術も高いため二酸化炭素などの排出量が減った先進諸国が、これから排出量を増やして経済成長(金儲け)しようとする途上諸国から資金をピンハネするための国際政治詐欺だった」

 “国際政治詐欺”かどうか、ぼくは判断する知識に欠ける。ただ、何であれ一度大キャンペーンが成功すると先入観が固定され、それをひっくり返すのは容易じゃない。

 この7月、8月、猛暑になるにしても、南半球はやはり大寒波がくるのではないか。

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騙すほうが悪いのか、騙されるほうが悪いのか

 誰にでも心の隙というのはある。こんな巧妙な手口でやられたらたまらないなぁ、という生々しい話を聞いた。友人の娘さんの体験だ。東京で長年、キャリアウーマンをしている。仮に珠美さんとしておく。

 2014年1月中旬、スマホの「友だちを作ろう」とかいうアプリでA子さんと友だちになった。何となく話が合い、「今度、いっしょにお茶しようよ」ということになった。

 ある日の夕方、渋谷のカフェで初めて会い、恋話などで盛り上がった。その最中、A子さんのスマホが鳴った。知り合いのB子さんだった。

 「今日、食事するはずだった友だちが急な残業で来れなくなった。いま、原宿でひとりなんだけど、そっちへ合流していい?」

 やがて、B子さんがカフェに現れた。B子さんは、A子さんとおなじ東北のある県の出身で2歳年上という。自然な流れでお金の話になり、B子さんは「お金は使うときには使っちゃう。両手にブランドバッグって感じで」と言った。

 A子さんは「えーっ。どうしてそんなにお金貯まるのぉ?私、貯金20万円くらいしかない」と興味をそそられたようだった。B子さんが「教えてもいいけど、あんまり教えたくはない」と、もったいぶって話したところによると、幼なじみのT君という青年が東京でいい仕事をしているという。B子さんは、お金に困っていたときT君に助けてもらったことがある、と言った。

 T君は、金融に詳しくある事業展開をしていてお金の貯め方をよく知っているそうだ。珠美さんもA子さんもますます興味を持って具体的な話が聞きたかった。B子さんは、その場でT君に電話した。

 珠美さんとA子さん、B子さんの3人は、後日、新宿の高層ビルにあるこじんまりとしたオフィスへ行った。パソコンとファクス機、丸いガラステーブル、いすが4脚あるだけだった。Tと名乗る青年がいて、紙にいろいろ書きながら資産運用の説明をはじめた。珠美さんは、年収や貯蓄額を聞かれ素直に答えた。T君は「銀行に定期を預けていても、いま金利は低いからいくらにもならないでしょ。月に数万円くらい稼ぐ方法はあるよ」

 それはJRAについてのものだった。珠美さんは競馬などしたことがなかったが「JRAは120年もの歴史があり、何10年分ものデータをコンピューターで分析すれば、どの馬がどんな天候で勝ってるか統計学的に予測できる」とT君は言った。そして、テーブルのパソコンで今後1年分のシミュレーションを出した。はずれ、はずれ、はずれ、当たり。

 「たとえば、自己資金10万円ではじめた場合、はずれがつづけばお金は減っていくが、いずれ当たりが出て減った分を取り戻してプラス分が利益になる。はずれがつづいても、その反動で大きな利益が出る」

 珠美さんもA子さんも、「このシステムすごいね」とすっかり乗り気になった。出資額が大きいほどプラスも大きい。システムのPC用ソフトを買わないといけないが、プラス分を上乗せすればすぐに元は取れる、とT君は言った。

 ソフトのDVDは94万円という。珠美さんは高いと思い「そんなに払えません」といったんは断った。すると、B子さんが「私はP社でお金を借りてソフトを買い、返済が終わってプラスが出たからひとり旅をしたのよ」と言った。A子さんは「そうなんだ」とうなずいた。T君は「特別に10万円引いて84万円でいいよ」と押してきた。

 B子さんは「P社までついて行ってあげるわ」とついてきて、珠美さんは限度額の50万円を借りた。A子さんもおなじように書類を書いていたから、借りたのだと思った。さらにA社で20万円借り、貯金も14万円引き出し、T君のオフィスで現金払いした。「高額商品の買い物だから、周囲はびっくりする。利益が出るまで誰にも言わないように」

 それから数日後、珠美さんは何かおかしいと思いネットで調べると、まったくおなじ経験をした人がいた。彼氏に相談したら「そりゃ、騙されたんだ」。T君に電話をかけたが「クーリングオフ期間を1日過ぎてるから解約には応じられない」と突っぱねられた。

 彼氏が消費生活センターに問い合わせると、「期間は過ぎていても、とにかく内容証明郵便で解約の通告をして」と言われた。彼氏はさらに知り合いのつてをたどって弁護士に連絡を取ったうえで、Tに電話をかけ、「解約に応じなければそれなりの手段を取る」と直談判した。

 珠美さんが郷里の父親つまりぼくの友人にSOSの電話をしたのは、その後だった。「まず、借りたお金をすぐに返さないと大変なことになる」。土曜日午後だったが、ネットバンクから珠美さんの口座へ送金した。「必ず警察に行くように。でも、詐欺の立件は難しいし、だめなら弁護士だ」と珠美さんに伝えた。84万円はたぶんあきらめるしかない。

 ぽっと出の小娘じゃあるまいしそんな手に乗せられるとは。友人がもんもんとしていたその夜遅く、珠美さんからメールが入った。「Tから、会社のイメージが悪くなると困るし、“余計なこと”をしないのを条件に全額返金するって電話がきた」

 9回裏2死、逆転さよならホームランだ!被害者が次々と生まれている恐れはあるものの、珠美さんに危害がおよぶかも知れず、警視庁に届け出もできない。

 もちろん、彼氏の株は、インチキ統計学とは関係なく、大いに上がった。

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STAP細胞 “隠れ理系男子”の独り言

 まだ30歳という理系女子・リケジョが、すごいことをやってくれた。第3の万能細胞、名づけて「STAP細胞」をいともシンプルなやり方で作ることに成功した。シンプルと言えば、アインシュタインの有名な公式「E=MC2乗」を思い出す。宇宙というのは、やはりシンプルな法則でできているようだ。

 高校で理数科にいたぼくは、なぜか大学の文学部へ入ったが、いまでも“隠れ理系男子・リケダン”だから、このニュースには血湧き肉躍る。

 神戸発の速報は瞬時に世界へ流れた。その際、「初期化」という言葉が使われた。

 初期化と言えば、コンピューターのフロッピーディスクを連想する。いまではほとんど姿を消したが、かつてはフロッピーにデータを保存した。新しいフロッピーを買ってくると、まず、自分のパソコンに挿入し、その基本ソフト(OS)に合った白紙の状態にしてから使わなければならなかった。それも、手動で「FORMAT」と入力してエンターキーを押し、初期化させてから使うのだった。

 生物は、受精卵からはじまり組織や臓器に分化していく。皮膚や筋肉のように役割が定まった細胞を未熟な状態にもどすことを、細胞生物学の研究者たちは初期化と呼んでいる。

 いったん皮膚や脳、内臓などになった細胞は、元にもどったり他の細胞に変化したりしないとされていた。この定説を覆し、2006年、たった4種類の遺伝子を細胞に入れるだけで初期化できてしまうことを突き止めたのが、京都大学の山中伸弥教授だった。「iPS細胞」と名づけ、2012年、ノーベル賞をもらった。

 つまり、この分野でいう初期化とは、細胞が望みさえすれば何にでもなれた昔にもどるプロセスのことを言う。タイムマシンに乗せて過去にもどすようなものだ。

 30歳のリケジョ小保方晴子さんが開発したタイムマシンは、意表をつくものだった。幼いマウスの細胞(リンパ球)を弱い酸性の液に30分ほど浸け、瀕死状態に追い込み、生き残ったリンパ球を特殊なタンパク質を加えて培養したら、2~3日でSTAP細胞に変化した。毒素を加えた化学的な刺激、細いガラス管にリンパ球を何度も通す物理的な刺激でも作製できた。筋肉や神経などの細胞でも、刺激を与えると初期化が起きた。

 刺激という言葉を言い換えればストレスだろう。ふつう、ストレスはさまざまな病気の原因とされてきたはずだ。それが、なぜ、細胞を初期化するのか。今回は、その能力を遺伝子操作ではなく刺激だけで引き出した点が世界を驚かせた。

 植物では周囲の環境が変わると未熟な細胞に変る現象が知られていたが、哺乳類のような高等動物では不可能だとされてきた。今回の発見は、動物、植物という壁を越えて考える機会を提供した。というか、そもそも、動物と植物の中間生物もいるし、相当柔軟な頭で考えなければならない。

 体内ではストレスがあっても多機能細胞が作られることはない。体外での培養でしかできないのはなぜか。STAP細胞の現象は、生物にとってどんな意味があるか。生物の成長と老化、病気の仕組みを明らかにするきっかけになるかもしれない。

 STAP細胞やiPS細胞の研究が進みヒトの細胞でも成功すれば、傷んだ組織や臓器を蘇らせる再生医療に応用できる。

 ぼくの母(84)は慢性腎臓病を罹っており、数値がさらに悪くなれば人工透析に頼ることにしている。人工透析だって考えてみれば大変な医療技術だが、週に2回から3回、4時間ずつじっと装置につながれていなければならない。

 多機能細胞でそれぞれの患者に合った臓器を再生し移植できるようになれば、医療は飛躍する。実用化にはまだかなりの時間がかかり、母には間に合いそうもないのが残念だ。

 たしか、山中教授がiPS細胞の作製法を開発したとき、「生物の細胞にもともと備わった能力を活かして作る方法」とされた。その「もともと備わっている能力」というのが謎であり魅力的でもある。

 STAP細胞の場合、瀕死の状態に置くのがミソとなっている。これは、「火事場の馬鹿力を発揮させる」手段といえば当たらずとも遠からずか。

 友人のK君は山男で、北アルプスに登ったとき崖から転落して死を覚悟した瞬間、脳裏に過去のすべての経験が猛スピードの走馬燈のように流れたという。おなじ話はよく聞く。脳内現象なのだろうが、細胞レベルでも、死を覚悟した瞬間、潜在的な力が一気に生まれるのかもしれない。

 STAP細胞の開発エピソードでは、足を引っ張り合うのが常の世で、著名な先輩研究者たちが協力したというのもいい。日本政府は再生医療研究に年間90億円支援し、それを10年間つづけるという。小保方さんの理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)も政府が整備したものだ。

 日本のお家芸・再生医学でまたもノーベル賞か。ちゃんとした研究でノーベル賞を取ったことが一度もない某隣国からの歯ぎしりが聞こえる。実用化競争は熾烈になるだろうし、日本も油断があってはならないが。

 小保方さんは、高校のとき、大学では文系に進もうかと考えていたこともあったそうだ。恩師は「異分野融合の申し子」と呼ぶ。“隠れ文系女子”だからよかったのかもしれない。

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