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STAP細胞 “隠れ理系男子”の独り言

 まだ30歳という理系女子・リケジョが、すごいことをやってくれた。第3の万能細胞、名づけて「STAP細胞」をいともシンプルなやり方で作ることに成功した。シンプルと言えば、アインシュタインの有名な公式「E=MC2乗」を思い出す。宇宙というのは、やはりシンプルな法則でできているようだ。

 高校で理数科にいたぼくは、なぜか大学の文学部へ入ったが、いまでも“隠れ理系男子・リケダン”だから、このニュースには血湧き肉躍る。

 神戸発の速報は瞬時に世界へ流れた。その際、「初期化」という言葉が使われた。

 初期化と言えば、コンピューターのフロッピーディスクを連想する。いまではほとんど姿を消したが、かつてはフロッピーにデータを保存した。新しいフロッピーを買ってくると、まず、自分のパソコンに挿入し、その基本ソフト(OS)に合った白紙の状態にしてから使わなければならなかった。それも、手動で「FORMAT」と入力してエンターキーを押し、初期化させてから使うのだった。

 生物は、受精卵からはじまり組織や臓器に分化していく。皮膚や筋肉のように役割が定まった細胞を未熟な状態にもどすことを、細胞生物学の研究者たちは初期化と呼んでいる。

 いったん皮膚や脳、内臓などになった細胞は、元にもどったり他の細胞に変化したりしないとされていた。この定説を覆し、2006年、たった4種類の遺伝子を細胞に入れるだけで初期化できてしまうことを突き止めたのが、京都大学の山中伸弥教授だった。「iPS細胞」と名づけ、2012年、ノーベル賞をもらった。

 つまり、この分野でいう初期化とは、細胞が望みさえすれば何にでもなれた昔にもどるプロセスのことを言う。タイムマシンに乗せて過去にもどすようなものだ。

 30歳のリケジョ小保方晴子さんが開発したタイムマシンは、意表をつくものだった。幼いマウスの細胞(リンパ球)を弱い酸性の液に30分ほど浸け、瀕死状態に追い込み、生き残ったリンパ球を特殊なタンパク質を加えて培養したら、2~3日でSTAP細胞に変化した。毒素を加えた化学的な刺激、細いガラス管にリンパ球を何度も通す物理的な刺激でも作製できた。筋肉や神経などの細胞でも、刺激を与えると初期化が起きた。

 刺激という言葉を言い換えればストレスだろう。ふつう、ストレスはさまざまな病気の原因とされてきたはずだ。それが、なぜ、細胞を初期化するのか。今回は、その能力を遺伝子操作ではなく刺激だけで引き出した点が世界を驚かせた。

 植物では周囲の環境が変わると未熟な細胞に変る現象が知られていたが、哺乳類のような高等動物では不可能だとされてきた。今回の発見は、動物、植物という壁を越えて考える機会を提供した。というか、そもそも、動物と植物の中間生物もいるし、相当柔軟な頭で考えなければならない。

 体内ではストレスがあっても多機能細胞が作られることはない。体外での培養でしかできないのはなぜか。STAP細胞の現象は、生物にとってどんな意味があるか。生物の成長と老化、病気の仕組みを明らかにするきっかけになるかもしれない。

 STAP細胞やiPS細胞の研究が進みヒトの細胞でも成功すれば、傷んだ組織や臓器を蘇らせる再生医療に応用できる。

 ぼくの母(84)は慢性腎臓病を罹っており、数値がさらに悪くなれば人工透析に頼ることにしている。人工透析だって考えてみれば大変な医療技術だが、週に2回から3回、4時間ずつじっと装置につながれていなければならない。

 多機能細胞でそれぞれの患者に合った臓器を再生し移植できるようになれば、医療は飛躍する。実用化にはまだかなりの時間がかかり、母には間に合いそうもないのが残念だ。

 たしか、山中教授がiPS細胞の作製法を開発したとき、「生物の細胞にもともと備わった能力を活かして作る方法」とされた。その「もともと備わっている能力」というのが謎であり魅力的でもある。

 STAP細胞の場合、瀕死の状態に置くのがミソとなっている。これは、「火事場の馬鹿力を発揮させる」手段といえば当たらずとも遠からずか。

 友人のK君は山男で、北アルプスに登ったとき崖から転落して死を覚悟した瞬間、脳裏に過去のすべての経験が猛スピードの走馬燈のように流れたという。おなじ話はよく聞く。脳内現象なのだろうが、細胞レベルでも、死を覚悟した瞬間、潜在的な力が一気に生まれるのかもしれない。

 STAP細胞の開発エピソードでは、足を引っ張り合うのが常の世で、著名な先輩研究者たちが協力したというのもいい。日本政府は再生医療研究に年間90億円支援し、それを10年間つづけるという。小保方さんの理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)も政府が整備したものだ。

 日本のお家芸・再生医学でまたもノーベル賞か。ちゃんとした研究でノーベル賞を取ったことが一度もない某隣国からの歯ぎしりが聞こえる。実用化競争は熾烈になるだろうし、日本も油断があってはならないが。

 小保方さんは、高校のとき、大学では文系に進もうかと考えていたこともあったそうだ。恩師は「異分野融合の申し子」と呼ぶ。“隠れ文系女子”だからよかったのかもしれない。

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