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ファクスという中テク製品の温かみ

 かみさんが視ていた録画したテレビ番組をひょいとのぞいたら、宅配弁当専門『玉子屋』の話だった。東京23区の一部と神奈川県川崎市、横浜市の一部に配達しているそうだ。その会社の名前をニューヨーク・タイムズの古い記事で見たばかりだった。

 テレビが焦点を合わせていたのは、弁当の廃棄率がたったの「0.1%」という点だった。それは、やっぱりすごいのではないか。

 うちのかみさんが出雲へUターンするまで勤めていた食品会社では、廃棄率は3%前後だったかもしれない。スーパーやコンビニにサラダパックや生春巻き、お節料理などを卸す会社だった。たくさんの小売業者用にものすごいパック数を作るのだから、注文数と製作数のくいちがいはどうしても避けられないのだという。

 会社の内規では、余った食材などは捨てなきゃならない。専門業者に引き取ってもらい豚の餌になるらしいが、そこはそれ、ぼくの胃袋に収まることもしょっちゅうだった。まれには、北海道産イクラや特上スモークサーモンといったわが目を疑う高級食材さえあった(^-^q)。

 玉子屋の廃棄率0.1%の理由は、まず、メニューを日替わり弁当の1種類に限っていることだろう。撮影のあった日は、『豚ロースのソテー・バルサミコ酢弁当』だった。10食以上をまとめて注文するのが条件だ。

 第2の理由は、注文予測の正確さだ。現場の配達員は翌日の注文数を予測して班長に伝える。班長は、さらに、次の日が月初めか月末か、週初めか週末か、メニューは何か、天気、気温はどうなりそうかなども考慮しながら微調整する。

 第3の理由は、徹底したリサーチだ。配達員が弁当容器を回収するとき、お客さんの感想を聞いたうえで、食べ残しはないかどんなものが人気があるかなど生情報を仕入れ、メニュー構成の参考にする。

 毎日6万個を作り、廃棄はわずか60個という。それも文字通り廃棄するのではなく、スタッフのまかないに回す。つまり、捨てる物はないのだ。

 社長の菅原勇一郎さんは、アメリカの名門スタンフォード大学に招かれ経営システムの講義を行ったこともある。日本の弁当産業は7兆円規模で、知る人ぞ知るお弁当大国という。そのなかでも「廃棄率0.1%」は光っていて、世界が注目しているわけだ。

 だから、ニューヨーク・タイムズに名前が載ったのかと思えば、ちょっとちがう次元の話だった。その記事が注目したのは、何とファクスだった。わざわざアメリカの新聞が取り上げるほどのものでもないだろ、と思って読み始めると、外国人にとってはかなり興味深いテーマだと分かった。

 記事にざっと注釈をつけて紹介すると次のようになる。

 日本と言えば先端ロボットや新幹線、世界有数のインターネット高速通信で知られる。だが、実は、日本で発明され1980年代に広まったファクス機がいまでも活用されている。他のほとんどの先進国では、8トラックやカセットテープなどとおなじように粗大ゴミのひとつになってしまい、アメリカのスミソニアン博物館では、ファクス機を“考古学的”人工物としてコレクションに加えたほどだ。

 日本の内閣府によると、ビジネスの事業所の100%、一般家庭の45%にファクスが普及している。NTTコミュニケーションズの担当者は、「ファクスは非常にうまくできた機器なので他のものに取って代られることはまずない」と語る。1970年代の技術改革に貢献し、いまでも日本社会に例を見ないほど深く根を張っている。

 その一例として『玉子屋』が紹介される。杉原社長は、10年ほど前、経営を合理化しようと注文をすべてネットのメールで受け付けることにした。だが、注文は激減した。そこで、ファクス機を100台備え電話オペレーターも配置しこまめに注文を受けるようにしたら、経営は右肩上がりになった。ファクスの多くは手書きで、「フライドチキンのバターを少なめにしてください」「固ゆで卵を1個追加しておいてください」などと書かれているという。

 たとえば、日本の役所では、書類がファクスで送られてくればそれに判子を押せばいいから重宝する。多くの会社では、注文書の控え・証拠としてファクスに頼っている。銀行に言わせれば、顧客情報を保護するのにネットよりファクスのほうがずっと安全だ。

 2011年3月の東日本大震災のあと、津波にさらわれたパソコンなどに代わってファクスが売れまくるブームがあった。なかでも売れ筋のひとつは、停電時にも使えるバッテリー内蔵のモデルだったという。その話は、ぼくも初耳だ。

 玉子屋の杉原社長は、「日本文化にはいまでも、手書きによる人の温もりを求めるような何かがあります」と語ったそうだ。

 日本がファクス機を手放そうとしないのは、社会が高齢化するなかで、世界の他の国が急速になくしてしまった手で触れ形のあるものにこだわろとうとする意識があるのかもしれない、と記事はまとめている。

 ファクスは、スマホのようにハイテクでも固定電話のようにローテクでもない。その“中テク”なところが長寿の秘訣らしい。

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