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台湾のラーメンと台湾ラーメン

 羽田から飛んで台湾の台北松山空港へ降り立ち、ホテルへ直行したあとすぐに街へ出た。2013年1月のことだ。気候は温暖で快適だった。

 ある目的地に向かう途中、歩道に行列ができている料理店の前を通った。通りからガラス越しに見えるキッチンでは調理師さんたちが忙しそうに立ち働いており、その奥にある店内は満席だった。ちょうどお昼時だった。

 それからしばらく経って、おなじ道をもどって来たら、さきほどの店の行列は消え、店内もがらんとしているのが見えた。腕時計を見ると午後1時過ぎだった。台北も日本の都市とおなじで、正午から午後1時までがランチタイムとして混雑するのだろう。

 同行していたかみさんに「あれだけお客が多かったんだから、きっとうまいんじゃないの」と声をかけて入った。海外へ行くと必ず、ガイドブックにはない“庶民の店”で味と食材、サービスを確かめることにしている。その点で、この店は申し分ない。日本で言えば、レストランというより大衆食堂という感じだった。

 店員の中年女性に、英語で話しかけるかそれとも日本語のほうが通じるか、一瞬迷った。その店員は、何も言わないでも日本語のメニューを持って来てくれた。観光客も来るんだろう。

 お腹がすいているからすぐにでも注文したいが、台湾での初めての食事だからじっくりと検討した。酸辣湯麺にも日本語訳がついているものの、「これは中国語のほうがわかりやすいわよね」とかみさんが言う。日本でもサンーラータン麺を知るひとは多いだろう。

 台北の物価は、街歩きでチェックした限り日本のほぼ半分くらいだった。どうせなら、この店で一番高い料理にしよう。「牛肉と筋肉とホルモンの麺」とあるのにすることにした。これで180台湾元、日本円にすると約610円くらいだ。かみさんは、エビのワンタン麺80元、約270円にした。

 お客はもうほとんどいなかったから、料理はすぐに出てきた。お昼時の繁盛ぶりを脳裏に、期待をふくらませてスープから試した。ん? 調理師さんは何か肝心な調味料を入れ忘れたのか? いや、プロが毎日何百杯と作っているだろうから、手順をまちがえるはずはない。それにしても味が薄い。薄いというか、醤油か塩が決定的に足りない。これじゃ、腎臓病などの病院食じゃないか。もっとも、病院食を食べたことはないが。

 スープがそれだから、麺を口にしてもうまいわけがない。でも、テーブルに調味料は置いてない。ふくらんだ期待の風船が一気にしぼむ気分で、かみさんを見ると、やはり首をかしげている。そっちのスープもすごい薄口のようだ。

 参ったな。自分で味の濃さを調節するのが台湾流なら、店員が調味料を持ってきてくれるはずだが、そんなそぶりもない。店員たちは、暇そうに何かおしゃべりをしている。これも異文化との遭遇だ、と何とか完食して店を出た。

 歩道を歩きながら、考え込んでしまった。これまで20以上の国の料理を試したが、あれだけ味が薄いのは初めてだった。たまたま、あの店がそうなのか。だが、あれだけ繁盛しているのだから、あの味が台北の人たちにとっては美味なのだろう。

 街の光景には、昭和初期の日本の都会はこうだったか、と思わせるレトロな趣がある。その親近感と超薄味のギャップが、頭のなかで消化不良になりそうだった。

 翌日に乗ったタクシーの運転手さんは、日本語ぺらぺらで、「牛肉麺と餃子が美味しい店」を紹介してくれた。その店に入ってエビ餃子10個120元と牛肉麺130元を食べた。またも異文化に打ちのめされた! ここのひとたちの味覚はどうなっているのだろう。

 前夜は、たまたま行った中華レストランが、台湾では唯一ミシュランの星を取っている高級店だった。味はそれなりにあったが、今度はビールが生ぬるいのに参った。台湾ではアルコール類を飲むひとが少なく、しかも常温で飲むのがふつうらしいとあとでわかった。外国人観光客の多い「士林夜市」の店は冷やしてあったが。

 1年半の時が流れ、日本テレビ系『秘密のケンミンSHOW』を録画して観たら、<台湾ラーメン>の特集をやっていた。愛知県民の大好物で、この名前の麺を出す店は県内に200軒以上もあるらしい。

 名古屋にある『味仙』という店の台湾出身の先代が、40年前に、台湾のタンツー麺を激辛にアレンジして客に提供したところ、口コミで広まっていまに至るのだそうだ。店のひとは「台湾にはありません。辛すぎるから」と言う。ある愛知ケンミンは「スープの辛池地獄がでらうまい」と汗びっしょりで食べていた。「でら」は名古屋弁の新語で、「えらい」の比較級および最上級の「どえらい」あるいは「でえーりゃー」の略だそうだ。「冬は温かく、夏は汗をかいてすっきりする」と、週に4回食べるというひとさえいた。

 かみさんも「美味しそーっ!」と言い、わが家でも作ってみることにした。大量のニンニクのみじん切りと豚ミンチ、大量の唐辛子を鍋に投入して炒め、醤油と鶏ガラスープでさっと煮込む。中太ストレート麺、生のニラとモヤシを入れた丼に注いで出来上がりだ。

 確かに、くせになる。残ったスープにご飯を入れてかき込むのが名古屋流だそうで、ぼくたちも先人につづいた。“病院食”に慣れた台北のひとに食べさせたら、辛さと味の濃さにひっくり返るだろう。台湾のラーメンと台湾ラーメンの差はあまりにかけ離れている。

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