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幻のぼたん鍋と出雲のジビエ

 わが家の屋根と外壁の修理のため、大工さんと左官さんに来てもらい、午前10時のお茶を出しているときだった。大工さんが、「冬になったらぼたん鍋を食べに行かない?雪景色のなかの露天風呂も最高だよ」と話を切り出した。

 大工さんは、Uターンしたぼくたち夫婦に、選りすぐりの出雲情報を「ひとつずつ小出しにして話題をつないでいく」つもりなのだそうだ。前回はアワビとサザエの話だった。そして今回は、雪景色と露天風呂プラスぼたん鍋の件を切り出したのだった。

 かみさんも、身を乗り出して聞いている。ぼたん鍋と言えば、もちろん、イノシシ肉の鍋料理だ。出雲でもイノシシが捕れるのかと聞けば、畑を荒らす害獣のひとつで、左官さんが「捕まえれば市から報奨金が出ますよ」と言う。

 後日、ネットで調べてみたら、「出雲市鳥獣被害防止緊急捕獲等対策事業捕獲報償金」というむずかしい名前の制度があった。イノシシの成獣が1頭8,000円、イノシシの幼獣いわゆるウリボウが1匹1,000円で、他にヌートリア、アライグマ各1,000円となっていた。

 ヌートリアは、別名「沼狸」と呼ばれるそうだ。イメージのよくわかるネーミングではある。南アメリカ原産で日本には本来分布していない外来種という。川や湖沼に棲息し、農作物を荒らすため農家からは目の敵にされている。わが家の前を流れる川へ降りる階段には波板トタンで蓋がしてあるが、これもヌートリア対策だそうだ。

 たまたま、2014年5月24日の新聞には、改正鳥獣保護法が、参院本会議で可決、成立したことを伝える記事が載っていた。「有害鳥獣の捕獲を促進し生息数を適正規模に減少させる」ことを盛り込んでいるそうだ。

 シカやイノシシなどによる農作物の被害は、全国的に増える一方という。法律ではこれまで鳥獣を「保護」することに力点をおいていたが、これからは「管理」に力を入れる。つまり、増えすぎた害獣は人間の手で積極的に減らすわけだ。その結果、ぼくたちの胃袋にジビエ料理がおさまることになる。食いしん坊の身としては、歓迎すべき状況ではある。

 ぼたん鍋と言えば、忘れられない思い出がある。ドイツのボンに駐在していたころの話だ。ボンの郊外には、グリム童話『白雪姫と七人の小人たち』の舞台となった「七つの山」という山岳地帯がある。ここで、1994年から95年にかけての冬、戦後ドイツ最大規模のイノシシ狩り作戦が計画されていることを知った。

 数年来つづく暖冬のせいでイノシシの頭数がねずみ算式に増え農作物の被害が目立つようになったため、大規模な駆除に乗り出すことになったという。

 ぼくは、ドイツ人助手に指示して情報を集め、作戦の当事者団体に、当日、現場で取材させてくれるように頼んだ。地元狩猟連盟の会長によると、ハンター200人、追い立て役60人、猟犬50頭を動員する計画だった。

 獲物は狩人の伝統に従って一か所に集めてみんなで食べ、残りは福祉施設などに寄贈すると聞いた。取材というのはむろん表向きの話で、ぼくの密かな狙いはイノシシの肉だ。事前取材に応じてくれた会長は、肉を大量にわけてくれそうな口ぶりだった。手に入れば、在留日本人を中心に仲間を呼び集め醤油味のぼたん鍋パーティを挙行する予定で、よだれを垂らしながら作戦のXデーを待った(^-^q)。

 しかし、問屋はそうは卸さない。狩猟連盟は、事前にリハーサルを兼ねて小規模の狩りを行った。その際、120人ほどの男女が現場に現れ、笛を吹いたり白布を振ったりしてイノシシを猟場に近づけないよう妨害した。それだけじゃなく、ハンターの車を壊すなど暴力行為にもおよんで、24人の警官隊が出動する騒ぎになった。本番となれば一段と大きなトラブルが予想され、大規模作戦は中止に追い込まれてしまった。

 つまり、異国でのわれらがぼたん鍋パーティは幻に終わった。

 妨害した男女は、俗に「独立系動物保護主義者」と呼ばれていた。だが、ハンターや警察にもその実態はつかめておらず、ドイツ国内で報道されたこともほとんどないという。助手に連邦政府新聞情報庁の膨大なデータベースも調べさせたが、関係資料はさっぱり見つからなかった。

 さまざまな動物保護団体に当たった結果、ようやくその騒ぎの当日、現場にいたという女性がわかった。夫とともに『生体解剖反対連盟』というグループを結成したレギーナ・シュミッツさん(46)だった。日頃から狩猟反対デモなどを行ってはいるが、れっきとした登録団体で行動には節度を保っているという。

 シュミッツさんらが現場に行くと、10代後半から20代の若者が集結していて暴力行為に走った。彼らは当局にシッポをつかまれないよう、意図的に組織化を避けているらしい。だから「独立系」と呼ばれるわけだ。

 簡単に言ってしまえば、捕鯨に反対し暴力さえ辞さない『シーシェパード』のような狂信的動物保護主義過激派だ。政治面では、極右・ネオナチを最大の敵とするそうだが、同時に共産主義にも反対で、自分たちは極左ではない、と主張するそうだ。

 あれから20年が経つ。その後、彼らはどうなったか。ドイツのイノシシ肉を食べてみたかった。まあぼくらには、出雲のイノシシが待っている。嗚呼、冬が待ち遠しい。

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