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瀬戸内カニ採り大作戦

 瀬戸内海に浮かぶある島を、愛車のBちゃんで走っていた。スーパーがあったので駐車場へ停め、となりの食事処でお昼を食べようと車を降りた。でも、道路の向いに、なんともいえないひなびたお好み焼き屋を見つけ、そこへ入ることにした。

 70歳近いとみられる女将さんが、モダン焼きを焼いていて、常連風のおばさんふたりがカウンターに座っていた。カウンターとテーブルふたつだけの小さな店だった。

 壁にメニューが貼ってある。お好み焼きとモダン焼きだけで、モダン焼きはそば入りとうどん入りがあった。うどん入りのお好み焼きがあることは、前夜行った広島市の鉄板焼きの店で初めて知った。広島焼きといえばやきそばが入っているものしか知らなかったが、本場ではうどん入りもあるのだ。

 かみさんとふたりだから、モダン焼きのそばとうどん入りをひとつずつ注文した。せっかくの夏休みなので、たまには昼から一杯飲もうか。女将さんに「ビールありますか?」と聞くと、「そこのスーパーで買ってきて」と言う。そういえば、壁のメニューにもドリンク類はなく、常連さんたちは、カウンターの隅にあるウォーターサーバーからコップに水を汲んできては飲んでいる。

 ビールを置いてないお好み焼き屋というのは、記憶にない。そこが、ひなびた島の商売気のなさでいいところだ。脈絡もなく、夏目漱石の『草枕』を思い出した。あの作品では、ひなびた床屋で石鹸を顔にこすりつけて髭を剃られる話が出て来る。かみさんが「持ち込み料はなしですよね?」と確認している。女将さんは、特になにも答えず、常連さんたちとおしゃべりしながら大きなコテを動かしていた。

 冷蔵庫代わりのスーパーか、と独りごとを言いながら缶ビールを買いに行ってきて、モダン焼きができるのを待ちきれずに缶を開けた。

 「これからカニを採りに行きたいんですけど、どこら辺にいますかね?」。女将さんに聞くと、「そこらの海に行けばどこにでもいるわよ」と常連さんにあっさり言われた。いい歳をしてカニ採りだなんて、という顔だったので、あえて理由を説明した。

 ちょうど28年前、新婚旅行に行った韓国・済州島の岩場でカニを捕まえ、テニスボールの缶に入れてホテルの部屋へ連れて帰った。ハサミの赤いのを「赤太郎」、毛ガニの子どもみたいなのを「毛太郎」と名付け、ご飯粒をやるとハサミを器用に動かして食べた。

 それが可愛くて、日本へ持って帰ることにした。厳密に言えば、生き物は税関を通せないが、そこはそれ、ボールの缶をスポーツバッグの中に入れて成田へ帰った。特に荷物をあらためられることもなく、“密入国”させるのに成功した。

 以後、ぼくたちは海外赴任や一時帰国のたびに、いろんなものを密輸するスリルを楽しむことになる。インドへはパソコンを密輸入したが、あれはたしかに犯罪だった(^^;。

 赤太郎と毛太郎は日本食が好きなようで、ご飯を主食にちくわや刺身なども喜んで食べた。ハネムーンベビーの息子が臨月になったころまで元気だったから、9か月以上、わが家のペットとして頑張ってくれた。海のカニとはいえ、水道水で生きる。

 たかがカニでも、じっさいに飼ってみると情が移る。その後も、海や渓流へ行く機会があると、ぼくたち夫婦はカニを採ってペットにした。エサを指でつまんで与えると、ハサミで直接取って食べるようになったカニもいた。カニも餌づけできるのだと知った。見た目は赤太郎たちほどには可愛くなくて、名前もつけなかったが。

 昨秋、出雲へUターンし、友人夫婦にカニをペットにするのが趣味だと話したところ、その友人宅の裏山を流れる水路に、雨が降ると沢ガニが出没するという。あるとき、奥さんが2匹捕まえて、わざわざわが家まで持ってきてくれた。でも、沢ガニは一般的に言って海のカニほど強くはなく、その2匹も3週間ほどで亡くなった。

 瀬戸内海の島への旅も、テーマはカニ採りだった。お好み焼き屋を出てあてもなく走っていたら、大きな橋を渡り切ったところに駐車場があり、その下が岩場と砂浜の海水浴場になっていた。もう晩夏だからひと気はないが、いかにもカニがいそうな場所だった。

 海辺へ降りると、いるいる。だが、すばしっこくて簡単には捕まらない。かみさんは、スカートにサンダルばきで獲物を探し回っている。やっと何匹か捕まえられた。色は褐色で地味だが、カニはカニだ。結局、ふたりで10匹ほど捕まえ、持参の大きな紙コップに入れてBちゃんのところまでもどった。トランクに入れておいた虫かごが、わが家のカニさん用ペット小屋だ。それを発砲スチロールの箱に入れて、宿泊する温泉ホテルへ向った。

 カニは暑さに弱いので、虫かごを部屋に運び、瀬戸内海がパノラマに広がる窓辺に置いた。たまたま持っていたおにぎりのご飯と鶏肉の小片をやると、喜んで食べている。別室での夕食のあいだに布団を敷きにきた従業員は、カニがいるのに驚いたかもしれない。

 翌朝は、フェリー乗り場へ向う途中でスーパーへ寄り、保冷用の氷を勝手にもらって虫かごの入った発泡スチロール箱に入れた。こうして冷やしておけば、何時間でもカニさんたちは元気だろう。

 島の生まれというお好み焼き屋の女将さんは、島の外へ嫁いだが失敗して地元へ帰り、店を開いたという。瀬戸の花嫁にもいろんな人生がある。持ち帰ったカニのなかにはメスもいるだろうから、瀬戸の花嫁ということになる。いつまで元気か楽しみだ。

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