« フェイスブックは、おじさんのツールで結構 | トップページ | 父は眠るように逝き、弔砲は二度鳴る »

遺骨とシロアリとロボット

 北朝鮮について、「遺骨ビジネス」という言葉があるそうだ。 北朝鮮は、朝鮮戦争で戦死したアメリカ兵の遺骨を収集してアメリカに返還し、収集費用として1柱当たり100万円から200万円の謝礼を受け取っている。

 北朝鮮の領土に眠る日本人戦没者など北朝鮮からの未帰還遺骨は、誰が数えたか知らないが、2万1600柱とされる。日朝間に国交がないこともあり、これまで遺骨収集は行なわれてこなかった。

 2014年7月初旬以降、日朝間では、拉致被害者の帰国や遺骨の返還をめぐり駆け引きが行われている。日本人遺骨についてもアメリカ人の場合と同額を日本側に請求すれば、最低でも200億円から400億円の巨大ビジネスになる。外貨不足の北朝鮮にとって、この稼ぎはおいしい。

 それはともかく、この話は、アメリカ人も日本人も遺骨にこだわっていることを示している。死生観や宗教にまつわることだから軽々しく論評するようなことではないが、遺骨にこだわる考え方は、ぼくには分かるようで分からないところがある。

 遺骨を祖国に持ち帰って埋葬すれば死者の霊が慰められると信ずる宗教心からだろう。遺骨はすべて川に流して墓も持たないヒンドゥー教徒なら、遺骨ビジネスは成立しない。

 遺骨と同じように、髪の毛にこだわる考え方もある。戦地で亡くなった場合など、遺骨を持ち帰ることは無理でもせめて遺髪をと遺族に届けることが行われていた。

 産経新聞によると、現代でも切実なケースがある。1998年11月24日、三重県伊勢市で当時24歳の女性雑誌記者が、突然、消息を絶った。それから丸16年に当たる日、両親や知人らが伊勢市内のショッピングセンターで情報提供を呼び掛けるチラシを配布した。女性記者の母親(65)は、「どういう形でも、髪の毛一本でもいいから娘の何かを見つけてあげたい」と訴えたという。「髪の毛一本でも」という言葉は、娘の無事を祈りつつ、それがだめならせめて遺髪でも手に入れて供養したいという親の心情を象徴している。

 人間はときに遺骨や遺髪にこだわるが、元気なひとの髪の毛1本にこだわることはない。

 ところで、ミツバチが1匹いて、刺されたら困るからと叩きつぶし「命を奪ってしまった」と少し後ろめたい気持ちになったことはないだろうか。だが、1匹のミツバチは1個の独立した生命体と言えるか、という問題をぼくは以前から考えていた。

 ミツバチのうちメスの幼虫は主に花粉と蜂蜜を食べて育ち、働きバチとなる。働きバチの頭部から分泌されるローヤルゼリーだけで育てられたメスは、交尾産卵能力を持つ女王バチとなる。オスは巣の中では働きバチに餌をもらう以外は特に何もしない。オスは女王バチと交尾するため、晴天の日を選んで外に飛び立つ。オスバチは空中を集団で飛行し、その群れの中へ女王バチが飛び込んできて交尾を行う。オスバチは交尾の際に腹部が破壊されるため交尾のあと死に、女王バチは巣に帰還し産卵をはじめる。交尾できなかったオスも巣に戻るが、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出されるなどして死に絶える。

 ミツバチは、個体としては生きて行けない。ぼくたちが見かける1匹のミツバチは、集団ではじめて生命を維持している昆虫の“パーツ”でしかない。その個体が絶対になくてはならないものではない。髪の毛かせいぜい盲腸のようなものと言えるのではないか。

 ミツバチについて、以前からそんなことを考えていたら、シロアリ退治の会社のひとが書いたあるエッセイを読んで、シロアリも同じような生態だと知った。

 近ごろの建物は高気密、高断熱性を重視する作りになっており、床下に作業員が入れない物件も多く、カメラを搭載したロボットが潜っていって被害調査する。駆除用の薬剤散布も装置のホースをロボットが床下に持ち込んで行う。

 だが、エッセイのポイントは、そういうシロアリとロボットとの月並みな関係にあるのではなかった。

 2013年に開かれた「第31回日本ロボット学会学術講演会」で、シロアリの生態にヒントを得たロボット開発についての発表が行われたそうだ。

 ハチは集団で高度な能力を発揮することから「社会性昆虫」と呼ばれるが、シロアリも同じように集団で支え合って生きているのだという。その生態メカニズムをロボット設計に生かせないかと、八戸工業大学の研究者は考えたというから発想が斬新だ。

 たとえば、南米など乾燥地帯に生息するオオキノコシロアリは、土、糞、唾液を材料にして地上に巨大なアリ塚を作って繁殖する。そういうシロアリをよく観察すると、シロアリAの行動に刺激されてシロアリBやC、Dなどの行動が誘発され、アリ塚構築というひとつの目的に向ってたくさんのシロアリが参加し、作業そのものが加速される。

 そうしたシロアリの集団機能をロボットで再現し、でこぼこだったり穴があいていたりする不整地の土地で、車輪型ロボットの走破性を改善することを目指して研究を進めているそうだ。

 イメージとしては「無数のロボット群が目的地に到達するために、穴を埋め、段差を整地して進む光景」という。何か、楽しくはないだろうか。ロボット群というよりロボット軍と呼びたくなってくる。漫画に出てきそうな光景を、生身の研究者が真剣に研究しているところがいい。きっと、それは実用化されるだろう。

|

« フェイスブックは、おじさんのツールで結構 | トップページ | 父は眠るように逝き、弔砲は二度鳴る »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/540025/60719986

この記事へのトラックバック一覧です: 遺骨とシロアリとロボット:

« フェイスブックは、おじさんのツールで結構 | トップページ | 父は眠るように逝き、弔砲は二度鳴る »