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Fさんの不思議な治療室

 マッサージ台が3台並べられた狭い部屋だった。ここへ来るのは2回目だ。「この前、治療してもらってから、体の調子がすごくいいんですよ」。ぼくがそう言うと、Fさんは「それじゃ、ぼくの商売はあがったりだね」とジョークを飛ばした。

 出雲へUターンした約1年半前から、左の肩甲骨と背骨のあいだの辺りに不快な違和感を感じていた。東京国立市に住む息子が、2014年春先、「不思議な治療をしてくれるおじさんを知っているから、やってもらったら」と言ってくれた。東京へ4月に出張した際、息子の案内でその治療室に行った。

 Fさんに、見たことも聞いたこともない不思議な治療を受け、違和感がすっかり消えた。でも、持病の腰痛と肩から首にかけての凝りは以前からあったので、先日、また東京へ行った機会に治療室を訪れた。

 台にうつ伏せになると、Fさんはぼくの尾てい骨と脳天に左右の手を当て、小さな声でぶつぶつ言った。どこがどう悪いのか聞かれた。「腰と肩から首にかけて」と答えると、Fさんは仰向けになるようぼくに言った。指先を背中に差し込み、「ああ、こことここにありますねぇ」と言う。ここにあるというのは、違和感の元凶のツボということらしい。

 この前の治療で消えていたはずの左肩甲骨辺りの違和感がよみがえってきた。前回も治療中にそこがジンジンしだし、あとですっかり消えた。

 Fさんは手を離し、何かの言葉を腹の底から絞り出すように唱えはじめた。しばらくそれをつづけたあと、何かの楽器を鳴らしはじめた。目をつぶり仰向けになっているぼくに、その音色が体の中心に響く。何とも心の癒やされる響きだった。

 10分くらいもその音色がつづいただろうか。今度はぼくに上半身を起こさせ、こめかみの辺りを軽くもみほぐすように触った。次には頭頂部からやや下を触ってきた。もう一度ぼくを仰向けにさせると、ほんのちょっとだけ足などを手先で触りながら、腹の底からふたたび声を出し、骨盤や脊椎骨、頸椎などの名前を呼んで「開いていく、開いていく」と呪文のように唱えた。

 ぼくは、ひたすら心と体をFさんに委ねるよう心がけた。「根っこは深いですねぇ。一回の治療で消えることはないはずだと思いましたが、やっぱり、これは深い」。Fさんは、ひとり言のようにつぶやいた。

 約1時間の施術は終わった。電話で治療の予約を入れたとき、不思議な治療法について取材をさせてくれるように頼んでいた。「ふつうの言葉で言えば、誰にでもある自然治癒力を働かせる治療法ということになります。一番肝心なのは、患者さんが、自分は宇宙につながっていてその一部であることを“気づく”ことです」

 Fさんは、若いころ針灸学校へ入学したが針灸治療は性分に合わず、いちおう卒業したあと、カイロプラクティックの治療師として開業した。治療を進めるうちに、脳幹の異常緊張が身体のバランスを悪くするのだと気づき、治療法を変えた。脳幹は大脳の奥にあり直接触ることはできないので、試行錯誤をくり返しいまの治療にたどり着いたのだという。患者の体をほとんど触らないようになってしまったので「気功治療」と名乗っていたこともあるが、気功そのものは誰からも習ったことはないそうだ。

 Fさんが唱えたのは、1972年に翻訳が出た『心身の神癒』(マクドナルド・ベイン著)にあるキリストの言葉だった。施術中に患者さんが眠っていても、その言葉の波動が作用するのだという。「一番大切なのは、宇宙の真理を患者さんが気づくことです」

 Fさんは、腹から出す声は「倍音」だと言った。この言葉をあとで調べると、「振動体の発する音のうち、基音の振動数の整数倍の振動数を持つ部分音」とあった。Fさんが鳴らしていた楽器はUFOのような形をしており、ハング・ドラムと呼ばれるそうだ。2001年にスイスで開発され、いまでは国産もあるという。手で叩いたり、こすったりして音を出す。これも倍音を出すようで、Fさんは「その波動が脳幹に作用する」と言う。

 治療を受けていて、フィリピンの「フェイスキュア」を思い出した。英語では’faith cure’と書く。信頼とか信念、信仰の治療という意味だ。日本では30年ほど前、「心霊治療」と和訳されテレビなどで流行った。その本場がフィリピンだった。メスを使わず指先でがんに冒された内臓などを取り除く治療として日本でブームになり、フィリピンへがん患者が殺到する事態となった。

 ぼくが最初にフィリピンへ出張したのがちょうどそのころで、’faith cure’の取材をしたいと現地ガイドを通じて取材を申し込んだ。だが、「日本のマスコミは興味本位で取り上げるだけで、真実を伝えない」と断られた。

 日本のある番組では、施術者ががんの部位として取り出したのは鶏のレバーだったことが暴露され、ブームが一気にしぼんでいった。だが、本場ではいまも「心から信じれば、必ず治癒する」とされている。悪いのは、やらせをさせた日本のテレビ局なのだ。

 ひとの心と体は、ぼくたちが頭で考えているのとは本質的にちがうのかもしれない。Fさんが言うように、宇宙の本質におのおのが「気づく」ことが必要なのだろう。少なくとも、ぼくの左の肩甲骨と背骨のあいだの不快感は、Fさんの治療を信ずることで消えた。Fさんの名刺には「気づき治療」とある。

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