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情報のエアポケット ヨーロッパ野球

 ふた昔前、ぼくたち一家がドイツのボンに住んでいたころ、その地方都市には通称“アメリカ村”というのがあった。広大な敷地にマンション群、学校、映画館やレストラン、ボーリング場などがあり、たしか米ドルだけが通用していた。

 ボンは、ドイツが東西に分断されていた時代の西ドイツの暫定首都であり、アメリカ軍のヨーロッパでの拠点があった。村は、その拠点の職員と家族のためのものだった。

 アメリカ村にはゲートがあり、兵士が常駐していたので、誰でも気楽に入れるところではなかった。治外法権ではないが、事実上、そんな感じだった。でも、うちの子どもたちはアメリカン・スクールに通い、いつも車でゲートを通り送り迎えしていた。

 広大な敷地の全部をチェックしたことはなかったが、野球場があり、ああやっぱりここはアメリカそのものだなぁ、と思ったことがある。子どもたちも、体育の授業で使ったりしていたらしい。

 ボンからドイツの各都市やヨーロッパ各国へ出張した。どこの都市、国にも立派なサッカースタジアムがあった。いまMF香川真司選手が所属しているドルトムントのスタジアムにも、総選挙の事前取材で行ったことがある。与党・キリスト教民主同盟(CDU)の党大会が開かれ、報道陣のひとりとしてピッチに入って党首だったコール首相などの演説を聞いた。

 でも野球場はどの都市でも見た記憶がない。野球がらみで言えば、旧東ドイツのエアフルトへ行ったとき、デパートの中をうろついていたらグローブを売っていた。なんでこんなところにグローブなんかがあるんだろう、と不思議に思った。バットやボールはその売り場にはなかったので、よけいに不思議だった。

 それからちょうど20年が経ち、2015年3月、東京ドームでは日本代表・侍JAPANとヨーロッパ代表の強化試合2ゲームが行われた。11月に日本と台湾で開催される国際大会「プレミア12」に向けたものだった。

 それにしても、ヨーロッパ代表って何だろう。いくらシーズン開始前のキャンプ中とはいえ、日本の一流プロにヨーロッパの選手が太刀打ちできるだろうか。

 初戦の解説をしていた中畑清・横浜DeNAベイスターズ監督も、試合後、「10対0くらいで日本が勝つと思ってました」と語っていた。東京ドームへ観戦に行ったひともテレビ観戦したひとも、ほとんどはそう思っていたのではないか。

 それは当然だ。かつて日本は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で2連覇し、いまも世界ランクは1位だ。アメリカはWBCに超一流を出していないから2位だが、日本が世界でトップクラスなのはまちがいない。

 侍JAPANは、3番にショート坂本(巨人)、4番にレフト中田(日本ハム)、5番に指名打者の筒香(DeNA)を並べ、投手は大瀬良(広島)、牧田(西武)、藤浪(阪神)などをくり出した。まず、負けるはずはない。

 ところが二回、先制されてしまった。プロ13年目で初めて代表に抜擢されたセンターの雄平(ヤクルト)が、右中間よりの当たりを処理したときに隙を突かれて二塁打とされたのがきっかけだった。そして、四回にも雄平はフェンス手前の飛球をグローブに当てながらこぼして二塁打とし、2点の追加を許してしまった。

 雄平にかぎらず、侍JAPANの面々はどこかぎこちなく硬かった。八回には、一本調子で投げ込んできた相手投手に連打を浴びせ、どうにか逆転して、そのまま4対3で逃げ切った。だが、どうみても辛勝だった。

 中畑監督が口にした台詞は、意外にもヨーロッパはやるなぁ、という吐露だった。

 野球で日本とヨーロッパの代表がぶつかるのは初めてだったという。アナウンサーは「歴史的なイベントです」とくり返し言っていた。オランダにはカリブ生まれの選手たちがいて、イタリアとスペインには野球リーグがあるのだそうだ。

 それは知らなかった。ボンの自宅にはケーブル局と契約したテレビがあり、うちの子どもたちはドイツ語がわからないから、スポーツ専門チャンネル「ユーロ・スポーツ」でサッカーなどを観るのを楽しみにしていた。でも、当時、野球の中継はなかったと思う。

 今回の東京ドームの強化試合は、ヨーロッパ51の国と地域に衛星生中継されたそうで、その意味でも「歴史的」だった。WBCで意識するのは、アメリカやカナダの北米勢、キューバなどの中米勢、あとは韓国、オーストラリアなどといったところだ。ヨーロッパ野球はわれわれ日本の野球ファンにとって、ほとんど情報の空白地域だった。

 強化試合の主催者スタッフが心配していたのは、ヨーロッパ代表が弱すぎてワンサイドゲームになることだったらしい。それがとんでもない思い上がりだったのは、第2戦ではっきりした。侍JAPANは2対6でヨーロッパ代表に完敗してしまった。

 調べてみると、この前のWBCで、オランダはヨーロッパ勢として初の4強入りを果たした。その原動力となったのが、オランダが17世紀に入植した中米キュラソー出身の選手たちで、いまやオランダ代表の半数を占めている。イタリア、スペインなどでも野球人気は高まっているという。20年の東京オリンピックでも正式種目に復活しそうだ。

 それにしても、情報のエアポケットは恐い。何も野球にかぎった話ではないが。

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