« フランチャイズ制の盛と衰 | トップページ | 情報のエアポケット ヨーロッパ野球 »

ジビエと地方創生への道

 出雲市には3軒のジンギスカン料理を食べられる店があるそうだ。羊肉が何よりも好きなぼくとしては、すべて制覇したいところだが、初めて行った『じゅじゅ』にはまってしまい、まだそこしか知らない。

 2015年はひつじ年だ。縁起をかついだわけでもないが、先日、近所のご夫婦をその店に招待した。いつもご馳走になるのでたまにはお返しをしなきゃ、とかみさんの運転で向った。

 定番のジンギスカン焼きは、生後1年未満の子羊ラム肉と野菜盛り合わせが1,000円、成羊のマトン肉と野菜盛り合わせが900円とリーズナブルだ。それ以外のお勧めはラムチョップで、塩コショウ焼きが700円、香草焼きがたしか750円だった。分厚い脂肪が体に良く旨いのだが、弾力があって歯でかみ切りにくいので、店長にナイフとフォークをもらうことにしている。

 ご夫婦は羊肉を食べるのはじつに久しぶりとのことで、羊肉評論家を自認するぼくにメニューの選択は任せてもらった。肉の美味しさは当然として、この店の一番のメリットは、味をあえてつけていない羊肉を醤油、ポン酢、味噌という3種のたれにつけて食べ比べできるところだ。

 北海道へは日帰り出張(!)しかしたことがなく、まだ、日本の本場のジンギスカンを食べたことはないが、羊肉料理は世界各地で試した。パキスタンでは、それと知らず羊の脳みそのカレーなるものを食べた。白子のような食感があり、なかなかいける。そういう体験のなかでも、『じゅじゅ』はピカイチではないかと思う。

 新規開店して1年半ほどだが、店長にはいつも料理を絶賛し励ますことにしている。はっきり言って、出雲でまた来たいと思わせる店はそうたくさんはない。食いしん坊の身としては、こんな店があるなら出雲暮らしも悪くないな、と思わせるものがある。

 お抱え運転手さんはお茶で我慢してもらい、3人でビールや焼酎の水割りをやりながら、肉を平らげていった。メニューには羊肉ソーセージなどもあるが、今回は初心者がゲストなので定番だけにしておいた。

 食べながら、自然、出雲人の話になった。ぼくは「率直に言って、進取の気性に欠けるんじゃないですか」と日ごろからの感想を述べた。堅実と言えば堅実だが、古代出雲王朝の栄光は遠い昔、他のひとがしないこと、他の地域がしないことにチャレンジする精神に欠けているように思える。出雲人の例外中の例外が、テニスの錦織圭選手ではないか。彼を13歳で単身アメリカに送り出したご両親がすごいと思う。

 そんなことを話しながら羊肉を堪能した夜の後日、夕方のニュースで「第1回ジビエサミットが鳥取市で開かれました」という声に、耳がぴくんと動いた。鳥取県も島根県とおなじ山陰で地域性は似ているようだが、ジビエについてサミットを開くとはやるじゃないか、と感心した。37都道府県から、飲食業や食肉処理業、行政の関係者など約350人が参加したそうだ。

 鹿や猪の食害は山陰でも大きな問題になっている。じゃあ、それを逆手にとって地元の名物にするくらいの発想はないのだろうか。前々からそう思っていた。何でも最初にやるには相当のエネルギーがいる。ジビエサミットが第1回というのがいいと思った。

 でも、あとでネット検索すると、サミットを主催したのは、ジビエ普及を進めるNPO法人・日本ジビエ振興協議会(埼玉県三郷市)で、鳥取県は共催として会場などを提供しただけらしかった。なんだ、やっぱりそうか。イニシアティブを取ったのは、ぼくが出雲へUターンする前に住んでいた埼玉県のひとたちだったのだ。理事長は「大もうけできる食材ではないが、食肉として利用率を上げれば狩猟者が増え好循環を生み出せる」とあいさつしたそうだ。テーマは「地方創生への道 迷惑ものが資源に変わる」だった。

 読売新聞によると、出雲市の島根半島を中心に鹿による農林業被害は深刻で、推定2,000頭以上が生息している。島根県と出雲市は2015年度も1頭あたり3万円の捕獲奨励金をつづける方針だという。その他に、防護柵、ネットの設置費用補助、狩猟免許取得費補助など特別対策を実施している。だが、ただでさえ財政の苦しいなか、金を出すより捕獲した鹿をどう活用するかという智恵を絞ったほうが効果的じゃないかと思える。

 兵庫県へこの冬行ったとき、ローカルニュースで鹿や猪の料理開発の特集をやっていた。野生動物独特の臭みや固さをどうやって克服するか、調理師さんたちがアイデアを競っているという。もし、特産料理が生まれれば、観光客も呼べるし、猟師さんたちも張り切って「害獣の駆除」に精を出すだろう。

 わが家から4キロほどのところにある高級フランス料理店では、ジビエ料理の講習会が開かれ主婦ら約30人が参加した、と地元紙にあった。ところが、主催した猟友会に問い合わせると、ジビエ肉は市場に出回ってはおらず、家庭料理にする方法はいまのところないという。それじゃだめじゃん。何のために講習会を開いたのだろう。

 羊は、世界でもっともたくさん飼われている家畜でジビエの対極にあるが、出雲のユニークなスーパーでは「特殊肉」のコーナーにある。もし、『じゅじゅ』のレベルでジビエ料理を食べさせてくれる店ができたら、絶対に応援する。特殊肉コーナーにも置いてね。

|

« フランチャイズ制の盛と衰 | トップページ | 情報のエアポケット ヨーロッパ野球 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ジビエと地方創生への道:

« フランチャイズ制の盛と衰 | トップページ | 情報のエアポケット ヨーロッパ野球 »