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トオルちゃんが負けた。でも、先は分らない

 日本の首都は東京で、ドイツの首都はベルリンだ。だが、このふたつの首都には決定的なちがいがある。ベルリンには大統領官邸や連邦議会議事堂、各国の大使館などがあり、それは東京都とあまり差がない。しかし、ドイツの司法の殿堂である連邦憲法裁判所は地方都市のカールスルーエにあり、マスメディアの本社はハンブルクに集中している。経済の中心はフランクフルトだ。

 日本人の多くは、何でもかんでも中央機関が集まっているのが首都だと思っているかもしれないが、国によってずいぶんちがうこともある。

 ドイツはもともと小さな公国が集まってできた国であり、いまでも「国」である州が寄り集まる連邦国家だから、首都に国家機能が集中してはいない。だから、ベルリンに何か重大な異変があっても、影響は比較的小さくてすむ。

 政令指定都市の大阪市を廃止して5つの特別区に分割する「大阪都構想」をめぐる住民投票で、構想を率いてきた橋下徹・大阪市長が負けた。210万人の有権者がいるなかで、わずか1万票の僅差だった。スポーツでも政治でも、「勝負はいつも紙一重」だ。その紙一重の結果は重い。

 今回の住民投票は、単に大阪だけの問題ではなかった。橋下市長は、投開票日の2015年5月17日、数千人の聴衆を前にこう訴えたという。「東の東京都、西の大阪都、ふたつのエンジンで日本を引っ張る。世界で勝負できる大阪への第一歩を踏み出したい」

 大阪以外の地域に住む日本人にとっては、この「ふたつのエンジン」というところが大きな意味を持っていた。東京にはあまりにも首都機能が集中しすぎており、機能不全に陥っている面がある。そして何より首都直下型地震のリスクがある。東京で万一のことがあったとき、大阪が橋下市長の言う「副首都」として機能しなければならない。だが、いまの大阪のままでその重責が担えるだろうか。

 橋下さんは、過去7年間、大阪を引っ張ってきた。大阪府知事と大阪市長を務め、その二重行政の無駄、効率の悪さを肌で知っていた。加えて、大阪市は大手企業の本社機能が東京へ流出し商都としての地盤沈下が著しかった。行政も国の交付金に頼る情けなさだった。経済でも停滞がつづき、生活保護受給者の割合も飛び抜けて多かった。街の規模の割には活気が乏しく、単なる地方都市みたいな空気があった。

 だから、橋下さんは、大阪市を一度ぶっ壊して特別区に分割し、府知事に権限を集めて真のリーダーとし、大阪全体を活性化しようとした。それが副首都のイメージだった。

 住民投票の敗因は、説明不足に尽きるのではないか。区割り案も「大阪維新の会」だけで決め、住民の意見を聞くことはなかった。制度案は複雑で、橋下さん自身「大学生が4年間かけて勉強しても理解できない」と言うほどだった。

 大阪市は、26年前、26あった区を合区して現在の数に減らしたが、その際、2年がかりで99回の住民説明会を開いた。だが、今回、4月27日の告示前、市が主催した住民説明会は39回だけだった。その説明会には行列ができ立ち見が出る回もあったという。市民は正確で具体的な情報を欲しがっていたのだ。それに応えられなかった。

 そして、自民、民主、公明、共産各党の地元組織は「むだな二重行政はない」と連携し、都構想をつぶしにかかった。既得権益がそれほどあるということだろう。

 だが、財政学や経済学によれば、大阪の特別区が目指した人口30~50万前後の自治体規模は理にかなっており、基礎的な行政サービスの質を高めたうえでコスト低減も期待できたという。橋下さんたち推進派は、そういう都構想のメリットをもう少し丁寧に分りやすく市民に説明できなかったのだろうか。

 今回の結果は、安倍政権にも打撃を与えた。維新の党は憲法改正に積極的で、安倍首相も、大阪の自民党とは一線を画し、橋下さんにエールを送っていた。

 ぼくも、憲法改正の機運を軌道に乗せるためにも、橋下さんに勝って欲しいと思っていた。橋下さんは、9条改正はもちろん、道州制を導入して統治機構改革を実現させるとくり返し訴えてきた。

 憲法改正の国会発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要だが、自民、公明両党だけでは参議院の議席数が足りない。維新の党が鍵をにぎる。

 住民投票の敗北を受け、橋下さんは「政治家を引退し、弁護士にもどる」と明言した。しかし、川上和久・明治学院大学教授(政治心理学)は、読売新聞にこう語っている。「都構想が打ち出されて何年も過ぎ、すでに賞味期限が切れていたということだろう。・・・ただ、憲法改正論議を控え、維新の党の存在が大きくなる可能性もある。橋下さん自身の賞味期限は切れておらず、次の戦いがあるのではないか」

 読売新聞と読売テレビの共同出口調査によると、橋下さんを支持するひとの89%が都構想に賛成し、支持しないひとの92%が反対したという。やはり、住民投票は橋下さんの信任投票でもあったわけだ。

 少し冷却期間を置いて、16年夏の参議院選挙に橋下さんが出るという芽もあるのではないか。「君子豹変す」という言葉もある。安倍首相とは敗北後も携帯で連絡をとっているそうだ。タッグを組んで憲法改正を実現して欲しい。

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