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真夏の夜の夢――爆買い

 「店が荒れるから、本当は歓迎できないんだけどね」。世界的腕時計メーカーの役員をしている友人がこう語った。中国人観光客によるいわゆる爆買いのことだ。2015年の上半期に訪日した中国人旅行客は、昨年同期の2倍以上に増えた。

 時計店に団体で押しかけて、陳列棚の「端から端まで」買い込んだりする光景がふつうになっているという。その売り上げは会社全体の約13%を占めるそうだが、中国経済バブルによる一時的なものであることは、冷静な関係者なら気づいている。

 「本来は、お客様に丁寧に応対し、きちんと商品説明をしたうえで買ってもらう。そのプロセスをすっ飛ばして端から売れていくので、店員のためにもならない」。そういう状況を「店が荒れる」と呼ぶのだそうだ。

 東京など大都市だけのことではない。ぼくがいま住んでいる山陰でも、その恩恵にあずかっている。中国人約4600人を乗せた大型客船が、7月2日、島根、鳥取両県が管理する境港に寄港した。上陸した中国人らはグループに別れて爆買いツアーにくり出した。松江市のあるショッピングセンターでは、島根大学の中国人留学生約50人を臨時の通訳として雇い、“イナゴの大群”に備えた。

 医薬品と化粧品の売り上げは、わずか2時間でふつうの日の10倍にのぼったという。山陰の地元紙などをみるかぎり、店側は爆買いについて「地域活性化につながる。今後も期待したい」とし、境港管理組合でも「北東アジアを中心に船旅の人気が高まっている。万全の準備で臨みたい」と歓迎している。

 最近では家電や化粧品などの爆買いだけでなく、札びらをはたいて不動産を購入する中国人も増えているようだ。東京では新宿、六本木、赤坂など一等地のほか、2020年の東京オリンピックに向け価格上昇が予想される豊洲などの不動産を先買いするケースが目立つという。

 こうした中国人はバブルに浮かれているのだが、本人はたいていそれに気づいていない。過去1年近くつづいてきた中国の株ブームも終局を迎えつつある。これまで、株の売買などほとんど経験のなかった素人の個人投資家が、銀行からお金を借りてまで株を買ってきた。中国経済の右肩上がりがつづくという幻想があり、銀行はどんどん貸し出し当局もそれを推奨していた。

 だが、幻想は幻想だ。世界の金融ニュース、マーケット情報などを提供する『ブルームバーグ』は、最近、衝撃的な事実を伝えた。「中国株式相場は、3週間で時価総額3兆2000億ドル(約392兆円)を失った。これは本土の取引所で1分間に約100万ドル(約1億2200万円)ずつ吹き飛んだ計算になる」

 中国国営メディアは、中国株の急激な下げの主犯格として、「空売り」と「海外投資家」などをあげているそうだが、それは巨額の株取引の全体からみればほとんど無視できるほどの規模でしかない、とブルームバーグは指摘している。

 別のメディアによると、北京にある長江商学院の副院長は「中国当局は相場急落に歯止めをかけようとしているが、方法が明らかにまちがっている。中国株式相場はすでに世界でもっとも操作された状態にあり、投資家に売りをやめさせることはできない」と述べた。

 読売新聞によれば、中国当局は政府系金融機関に株や上場投資信託(ETF)などを買わせ、株価を下支えしているらしい。経済が崩壊すれば、共産党独裁の終焉にもつながる。

 機関投資家が利益を確定させるため「売り」に転じた6月中旬以降、個人投資家に「もう株は下がりつづける」という悲観論が広がり、売りが売りを呼ぶようになった。ネット上では、巨額の損失を出した投資家が自殺したなどとする噂も飛び交い、混乱が広がったという。7月8日には、約半数の銘柄が売買停止となる異常事態となった。

 日本のバブル経済のことを思い出す。たしかに株価は上昇する一方で、ある同僚に「みんなが踊っているときは踊りゃな損だよ」と誘われた。同僚たちは、株だけではなくマンションなどにも投資していた。当時、バブルという言葉はまだなかったが、お金がお金を生み出す経済がまともなはずはない、とぼくは踊らなかった。

 やがてバブルがはじけ同僚たちが真っ青になったころ、ぼくはこっそり勝利宣言をした。全然別のやり方で資産を増やすことに成功していたのだ。他人がやらないことをするのがぼくの主義だ。経済でも政治でもバブルはあると思う。問題は、渦中にあるときそれがバブルだとほとんどのひとが気づけないことだ。

 ノーベル経済学賞受賞者でアベノミクスに大きな影響を与え世界中の市場関係者から一目置かれるポール・クルーグマン氏は、5月末に発売された週刊現代6月6日号ですでにこう警告していた。

 「今、こうして話しているあいだにも、バブルが崩壊しつつあります。中国経済のバブルのことです」「日本のバブル崩壊と比べものにならないくらい深刻な事態が起こる可能性が高いのです」「とりわけ日本に与える影響は途方もないものになる」

 あるレポートによれば、中国バブルがはじけると日本のバブル崩壊の25倍のお金が吹っ飛ぶとされる。ギリシャ危機の比ではない。

 爆買いで喜んでいたことなど、すぐ昔話になるかもしれない。

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