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「空気」という名のユルい民意の空回り

 国会議事堂周辺が、この夏から秋にかけてかまびすしいようだ。安全保障関連法制に反対する左派勢力が動員をかけている。ただ、その数字をみると、警察発表で3万3000人、2万人などだから、そうすごい規模ではない。60年安保条約改定のときには、警察調べで35万人が集結した。それとは比べものにならない。

 それでも、たいへんな事態にみえるのは、左派メディアが盛んに煽っているからに他ならない。日米安保体制に甘えてきた“平和ぼけ”のひとたちが、集まっているからだろう。いったん法案が可決されると、騒ぎは一瞬でおさまるのがこれまでの例だ。

 「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」とかいう大仰な名前の団体が、2015年9月14日夜、国会周辺で集会を行った。産経新聞によると、ノーベル賞作家の大江健三郎氏はこう語ったそうだ。「70年間の平和憲法の下の日本というものがなくなってしまう。このように力強い集まりを皆さんが続けられる。そしてそれが明日も続く。日本人は、あの憲法を無意味にしてしまうような法案から立ち直って、憲法の精神に立ち戻る。それしかない」

 憲法の精神で平和が保たれるのなら、そんな気楽な話はない。北朝鮮のミサイルや核開発、中国の東・南シナ海への進出と軍備増強などの現実には一切目を向けないのが、平和勢力のすごいところだ。集会には作家の佐高信氏、ルポライターの鎌田慧氏、法政大・山口二郎教授などが次々に演説し、安倍晋三首相を呼び捨てにしてののしったそうだ。

 メディア史研究者の佐藤卓己・京大教授は、輿論(よろん)と世論(せろん)を分け、世論は「空気」だと喝破している。国会に動員をかけたのは、その「空気」だ。

 倒閣運動のつもりだろうが、品格のないことはなはだしい。現実の安倍政権は安泰そのものだから、茶番と言うしかない。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が12、13両日におこなった合同世論調査では、9月8日に告示された自民党総裁選で安倍晋三首相が再選されたことについて、自民党支持層の85.5%が「賛成」と答え、「反対」は9.8%にとどまった。安全保障関連法案の抵抗感が強いとみられる公明党の支持層でも、60.0%が賛成した。これも「空気」ではあるが、与党支持層の多くが首相の続投を望んでいるのだ。国際情勢を冷静にみているからだろう。

 別の各種世論調査では、法制反対の音頭を取る民主党の支持率は、10%を切るほどに低い。国会周辺の騒ぎは「コップの中の嵐」にもならない。

 日本在住中国人の孫向文さんが、国会デモについて興味深い見方を披露しているので、デイリーニュースオンラインから抜粋を紹介する。孫さんは、中華人民共和国の浙江省杭州出身で、漢族の31歳という。20代半ばで中国の漫画賞を受賞してプロ漫画家となり、その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞した。

 孫さんは、まず、安保法制反対デモが中国国内でも詳しく報道されていることを取り上げた。<こうした報道に、僕は強い矛盾を感じます。なぜならば、中国では反政府デモなど絶対に認められるものではないからです。この報道はある意味、反政府デモを肯定するもので、そのままブーメランのように中国に跳ね返ってくるのではないでしょうか。これを見た民衆が、反政府の衝動に駆られたとしてもおかしくはありません>

 <僕自身は、……安保法案賛成の立場です。日本政府、並びに日本国民にはもっと中国政府の悪事を強く批判してほしいと願ってやみません>

 <僕が安保反対の人々に違和感を覚えるのは、彼らが「中国の人たちとも話せば仲良くやっていける」と考えていることです。ですが、彼らが見ているのは、中国政府であって、政府に虐待されているウイグルやチベットを始めとする少数民族、逮捕・拘留が相次いでいる人権弁護士、そして言論の自由を奪われている中国国民、中国の侵略を受けつつあるフィリピンではないようです>

 現代世界史の常識として、民主主義国と民主主義国の戦争は一度もない。だから、日本の平和勢力が真に平和を希求するのなら、共産党独裁の全体主義国家である中国を正面から批判し、その打倒に立ち上がるのが筋だ。しかし、日本の平和勢力はもともと左翼で、旧ソ連や共産党の中国に肩入れしてきた過去がある。だから、反安倍ではあっても反中国とはならないのだ。ここに、日本の欺瞞がある。ぼくが彼らを「左翼えせ平和主義者」と呼ぶのはそのためだ。

 孫さんは、ことの本質を突く。<僕が訴えたいのは、今後、日本の平和も脅かされる可能性があり、憲法9条は決して日本を守ってくれないということです>

 <以前の記事では、(学生グループ)SEALDsのラップをまじえた軽薄なデモに批判的な見解を示したのですが、日本で行われている安保反対デモは、民主主義国家だからこそ許される「ユルい」ものという印象を受けてしまいます>

 中国の反体制活動家らは、文字通り命がけで闘争をしている。

 <国民が政治に関心を持つことはいいことですが、もう少し安保反対派には現実を見据え、真剣に考えてほしいと声を大にして言いたいです>

 精神科医・土居健郎は、かつて、大ベストセラー『「甘え」の構造』で日本社会を鋭く分析した。甘えん坊たちのユルいデモをみて、それを思い出した。

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