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国際政治に翻弄されるアジアのサッカー

 サッカーW杯アジア2次予選をテレビ観戦していて、今回ほど国際政治の非情さを痛感させられることはない。アジア・サッカーの底上げを狙って、W杯ロシア大会予選から日本など強豪国も弱小国と対戦しなければならなくなった。われらが日本代表ハリルJAPANは、2015年9月8日、アフガニスタンと戦った。その際には、アフガン難民の行く末に思いをはせ、10月8日の対シリア戦では、内戦でめちゃくちゃになっているかの国のことを思った。

 いったい、シリアではいま何が起こっているのか。改めて調べてみた。サッカー・ジャーナリスト宇都宮徹壱氏は、ざっと次のような解説をしている。2010年末に北アフリカのチュニジアからはじまった「アラブの春」は、その後エジプト、リビア、そして中東のシリアへと飛び火した。だが、シリアでは収束の糸口がまったく見えないまま内戦が泥沼化した。人口の半分が住む家を失い、2割が国外脱出を余儀なくされている。彼らが、いまヨーロッパを揺るがしている難民の多くを占める。

 THE PAGEの黒井文太郎氏の記事によると、シリア難民の総数は約400万人にのぼる。トルコに約190万人、レバノンに約120万人、ヨルダンに約60万人などとなっている。また、国外に逃れた難民のほか、戦火で家を追われながらも、経済的理由などで国内に留まっている避難民が約760万人に達するとみられている。これら難民・避難民を合わせると1100万人を超す。

 国連や援助機関のケアが間に合わず、彼らの生活環境は劣悪と伝えられる。食料や水が不足しているだけでなく、冬を前に防寒着などもままならない。

 シリアでは、アサド政権の政府軍と反政府側の諸派、それにイスラム過激派「イスラム国」が入り乱れて交戦している。日本のメディアは日本人の殺害などイスラム国の残虐さを強調するが、難民・避難民の多くは政府軍による無差別攻撃から逃げた人びとだとされる。

 詳細に現地情報を収集しているイギリスの民間機関『シリア人権監視団』によれば、今年8月だけで犠牲者の総数は4830人にのぼり、うち1205人が民間人だった。民間人の犠牲者中、アサド政権に殺害された人が965人を占め、イスラム国をふくむ諸勢力の砲撃での犠牲者は162人、イスラム国に処刑されたのは32人にとどまった。複雑な内戦のなかでよくもそれだけ正確な数字があげられるものだとは思うが、いずれにせよ、シリアはすでに国の体をなしていないことだけはわかる。

 ハリルJAPANを応援しながら、あのシリア選手たちはどうやって集められ、どこでどう練習をしているのだろう、という疑問を抱いた。また、チームの遠征費用は誰が出しているのだろう、と。

 宇都宮氏は、こう書いている。「このシリア代表が、すべての国民の代表であるかというと、そうとも言い切れない。FIFA(国際サッカー連盟)のサイトを見ると分かるが、実はシリアではアサド政権の支配下で国内リーグが行われており、そこでプレーする選手を中心に代表選手が選ばれている。つまり(個々の選手の心情はともかく)彼らは政府公認のナショナルチームであり、当然ながらこれを認めないシリア人も少なくない」

 日本VS.シリアの試合は、第3国オマーンの首都マスカットで行われた。中立地やアウェーで行われるシリア代表の試合では、反体制派のシリア人がスタンドで自らの存在をアピールする騒動もたびたび起こっているそうだ。だが、日本戦ではそういう光景はみられなかった。

 アメリカを中心とするいわゆる有志連合は、イスラム国に対して空爆を継続しているが、非情にも政府軍による空爆は完全に傍観しているという。すでに国連安保理決議で「樽爆弾」の住居エリアへの投下は禁じられているものの、政府軍がそれを破っても放置されている。一般住民を空爆から守るには、飛行禁止措置をとることが必要で、トルコやフランスはその案に言及している。しかし、肝心のオバマ米大統領にその気配はないため、難民の発生は止まらないのが現実だ。

 そんななか、9月30日、ロシア軍が空爆をはじめた。ロシアは地中海に臨むシリアを地政学上の理由から重要視しており、アサド政権と事実上の同盟関係にある。そのため、イスラム国よりむしろ反政府軍の拠点に大々的に空爆をつづけている。政府軍の無差別空爆を止めるどころか、アサド政府軍と同様、民間施設も標的にしているとされる。

 ジャーナリストの田中宇氏は、こう予測している。「おそらく今後半年以内に、シリアとイラクは、ISIS(イスラム国)やアルカイダのテロ組織がほとんど掃討され、ロシアとイランの傘下でかなり安定した状態が始まる。ロシアは今後ずっと、中東で大きな影響力を持つだろう。その分、米国(や英仏)の中東における支配力が大幅に低下する」

 ロシア軍がシリア内戦にからんだため、有志連合が飛行禁止措置をとることなどが非常に困難になった、との指摘もある。アメリカもさすがにロシア軍と交戦する危険は冒せないからだ。米ロが戦火を交えることになれば、地域紛争ではすまなくなる。

 仮に戦火が少しおさまったとしても、シリアに平和がくる見通しは立たず、難民は帰還できそうにない。本当は、サッカーどころではないのだ。

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