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TPPにビビるより頭を使おう

 中秋の名月を見て数日後の朝だった。家の前のほうから、聞いたことのない大きな機械音がする。ちょっとうるさいなぁとは思ったが、そのまま新聞を読んでいた。すると、かみさんがやって来て「ものすごいスピードで稲刈りをやってるよ」と言う。

 庭先へ出てびっくりした。トラックの後部に回転式のカッターを付けたような重機が、時速15キロくらいの速さで田んぼを走り回っている。みるみるうちに稲が切り取られ、一列に倒れていく。1㌶の田んぼが刈り取られるのに10~15分しかかからなかった。農業を70年以上やっている隣のおじいちゃんも、呆然とその様子を見ていた。

 稲刈り機が導入されて久しいが、こんな大型で速い重機が近所に投入されるとは。刈られた稲は、別の重機で巨大なロールにされ、トラックに積まれてどこかへ走り去った。

 この田んぼの稲のあいだからは雑草がびんびんはえていて、かみさんと前から「何で田の草取りをしないんだろうね」と話していた。ぼくらが知る稲作りは、春に田植えをして、夏になると田の草取りをし、秋に刈り取る伝統的なものだ。くだんの田んぼの草がそのままだったのは、食用の稲ではなく家畜用のもので、トラックがロールを運んだ先はある牧場だとあとで知った。

 また、あるときは、かみさんが「小型無人ヘリコプターで農薬のようなものを散布していたわ」と話していた。後日、ぼくもウォーキングの途中、その現場を見た。出雲でも農業は進んでいるなぁと感心したものだ。トラック型稲刈り機や無人ヘリ散布が可能になったのは、たぶん、わが家の周辺でも大規模な土地改良(農地整備)が行われたためと思われる。農地が集約され、ずいぶん大きな田んぼがふつうになった。

 2015年10月5日、日米など12か国は、5年以上かけて行われたTPP交渉で大筋合意した。JAをはじめ農業関係者は「日本の農業が壊滅の瀬戸際に立たされる」と大反対してきた。出雲平野の真ん中にあるJA直営グリーンセンターのフェンスには、「TPP交渉参加 断固反対!」という古い横断幕がいまも張られたままだ。でも、TPPが実現すれば、関税が撤廃されたり大幅に引き下げられたりして、消費者や輸出企業などへの恩恵は計り知れない。大筋合意後の世論調査でも、国民の約6割は賛成している。

 たとえば、ブドウの関税は協定発効とともに即時撤廃される。わが家がインドに暮らしてファンになった輸入物「トンプソン」なども、値段がうんと安くなるだろう。そのいっぽうで、島根県内の園芸作物で最大規模を誇る特産「しまねブドウ」は、大ピンチとなる。となれば、それを乗り越えるための知恵をいっそう絞るしかない。

 そう言えば、ヨーロッパにはたしか柿というフルーツはなく、日本の柿が高級ブランドとして売られていた記憶がある。二十世紀梨もドイツのスーパーで見た。値段は日本で買うより相当高かったが、それでもマル金(言葉が古い!)の人が買うのだろう。

 日本政府は、TPP発効を念頭に、国産ブドウやイチゴなどをアジアの富裕層に売るため高級ブランド化の政策を練っている。すでに国産リンゴは「甘くて品質が高く、見た目もきれいだ」と、台湾などで贈答用としての人気が高いという。しまねブドウなどもそれにつづくしかない。

 政府は、零細農家が「農地集積バンク」を介して大規模農家や農業生産法人に農地を貸し出すときの「協力金(賃料)」を増額することも検討している。うちの近所の人もそうだが、農家は一般に、先祖代々守ってきた土地を人に売ったり貸し出したりすることに抵抗がある。といって、農業の後継者はどこの家でもほとんどなく、お年寄りが細々と米や野菜を作っているのが現状だ。

 わが家の一帯は、農地整備によって田んぼが集約されただけでなく、あちこちに散在していた畑地もまとめられた。家の真ん前にも大きな畑地が誕生したのだが、活用している家はほとんどない。区画された畑地の半分くらいは放置され、ヨモギなどの雑草が1メートル以上伸び放題になっている。別の家は夏草が茂ると草刈り機で刈ったり除草剤をまいたりするだけで、畑地をもてあましている。野菜を作っている家は1件もない有り様だ。

 そのなかで、うちのかみさんは孤軍奮闘している。何しろわが家の区画は約120坪もあるから全部を手作業で耕すのは不可能で、一部で鍬を打ち、いまは春菊や白菜、大根などを育てている。でも、野菜を作るより大変なのは、夏草刈りのほうだ。刈っても刈ってもすぐに生えて伸びてくる。それをかみさんが鎌で刈り、くよし(たき火)をして燃やすのは主にぼくの仕事となっている。だから、農業の衰退は肌身で感じる。

 山陰中央新報に、ちょっと痛快な話が出ていた。小型無人ヘリで農薬を空中散布するのは10年前から行われているが、ヘリは1200万円以上もする。そこで100~250万円で買えるドローンを導入して散布する試みが、すでにはじまっているのだそうだ。人海戦術で散布する昔ながらの方法だと、一度に4人程度は必要で1日に4~6㌶が限界だった。それが、ドローンなら1㌶を10分で済むという。

 また、農業支援事業を手がける出雲市の「農援隊」は、通常の5倍以上の高値で売れる高糖度トマトなどをハウス栽培する新技術を開発した。設備投資や運営コストは水耕栽培と比べ2~4割も安いという。

 出雲人もやるではないか。TPPにビビるより頭を使おう。

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