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国家そのものがインチキな某大国

 パリ同時多発テロで、国際社会の関心が一気に、フランスとイスラム国(IS)に集まっている。しかし、その陰に隠れた観のある、ロシアの組織的ドーピング疑惑は、世界スポーツ史でも前代未聞の大スキャンダルだ。このニュースを聞いたとき、真っ先に思い出したのが、モスクワ特派員をしていた元同僚F君の話だった。

 アフガニスタンの現代史をふり返ると、1979年末、当時のソ連軍は、南の隣国へ戦車で一斉に侵攻した。そのころ、アフガニスタンの首都カブールには、親ソのナジブラ共産主義政権があり、そのナジブラ大統領の要請でソ連軍が入っていったことになっていた。だから、ソ連の行為は「侵略」ではなく「侵攻」と一般に呼ばれている。事実上は、侵略以外の何ものでもなかったが。

 それ以来、カブール首都圏など一部都市以外の山岳地帯を活動エリアとするイスラム反政府ゲリラ諸派は、アメリカなど西側の軍事援助を受け、侵攻ソ連軍・ナジブラ軍と戦っていた。そのアフガン内戦が何年もつづいた。

 F君がモスクワ特派員となって赴任したのは、そういう国際情勢のころだった。あるとき、ソ連政府が外国の報道陣をアフガニスタン領内の戦略拠点に連れて行く取材ツアーを企画した。ソ連軍は、アフガン政府の要請を受け治安維持に当たっているが、反政府ゲリラがいかに残虐な戦闘行為で無辜の市民の命を奪っているか、直接取材して世界に報道して欲しい、というのがソ連の狙いだった。

 報道陣一行は、戦闘ヘリに分譲して、アフガニスタンのある地方都市へ入った。そこのアフガン政府の建物で、軍事情勢について説明を受けている最中だった。窓外でドーンという爆発音が響いた。「いま、反政府ゲリラのロケット砲が市内中心部に着弾しました」。ソ連当局者は、あまり間をおかずそう解説した。

 F君は、着弾のタイミングの良さ、解説のあまりの手際の良さに「あ、これは、KGBを使ったやらせだな」とすぐ見抜いたそうだ。KGBは、ソ連の謀略を担う泣く子もだまる諜報機関だ。

 ソ連政府とナジブラ政権は親分子分のような関係で、KGBの指導によりナジブラ政権もKHADという諜報機関を持っていた。

 そのころニューデリー特派員をしていたぼくは、ナジブラ政権に取材ビザをもらい、ニューデリー空港からカブール空港へ直行便で飛んで、政権側の動向やカブール一帯の情勢を取材して、東京に原稿を送る仕事をしていた。

 いっぽうで、アフガニスタンの東隣パキスタンに入り、両国国境に近いペシャワールへ行って反政府ゲリラ側の取材をすることもよくあった。あるとき、ひとりでペシャワールの青空市場へ行き、果物や野菜を売る屋台や雑踏をカメラに収めていた。民族服シャルワーズ・カミーズを着てあごに髭を伸ばした、どこにでもいそうな男性が地面に座り込んでいた。その辺りにレンズを向け、シャッターを切ろうとした。すると、その男性は、手に持っていた新聞でさっと自分の顔を隠した。あ、あの男はスパイ要員だ。KGBかKHADか。いずれにしても、乱射テロなどが相次ぐ市場で情報収集しているのだろうと思った。

 今回のロシア・ドーピング疑惑で、KGBを前身とするFSB(ロシア連邦保安局)の深い関与が取りざたされている。WADA(世界反ドーピング機関)の独立委員会が1年近く調査してまとめた報告書には、旧ソ連やいまのロシアのインチキぶりには慣れているはずのぼくでも、あきれてしまう内容が克明に綴られている。

 ロシアには、薬物検査を任務とする「表」の検査機関とは別に、「裏」検査機関があり、選手から採取した1417の尿検体を、裏表の間ですり替えていた疑いが指摘されている。その検査機関に頻繁に出入りしていたのが、FSBの要員だったという。

 また、たとえば、シカゴマラソン3連覇を達成した女子選手は、ドーピングのもみ消しをするため、ロシア陸上連盟の幹部に賄賂を渡したことを告白した。その幹部は、事実が公表されるのを防ぐため、当時の国際陸連会長に1億円を超える賄賂を贈ったとされた。いまフランス当局が捜査中だが、パリ同時多発テロでそれどころではないかもしれない。

 WADA独立委員会は、国際陸連に対しロンドン五輪金メダリストをふくむ5選手、指導者4人、医師ひとりの永久資格停止を勧告し、検査機関の責任者を辞任に追い込んだ。でも、まだ、氷山のほんの一角に過ぎない。

 かつてソ連・東欧の共産圏諸国は、スポーツに国家の威信をかけ、国をあげた強化体制でいわゆる「ステートアマ」を生み出し、西側諸国に対して圧倒的な優位を築いた。独立委員会は「ロシアにはソ連時代の名残がある」と指摘し、国ぐるみの不正行為が展開されていたとの見方を示した。かつて旧東ドイツでも組織的ドーピングがあった。

 ロシアのプーチン大統領は、国として独自調査をするよう指示したと伝えられるが、国ぐるみで行っていた不正を、自分たちの手で明るみに出すことはないだろう。プーチンはまた、「責任は違反した個人が負わなければならない」とし、国としての責任逃れの方策を練っているようだ。

 ひとつだけ、はっきりしていることがある。共産主義国家とその後身国は「政治も経済もスポーツも、ほとんどがインチキだ」という事実だ。もちろん中国、北朝鮮も。

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