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ミサイルかロケットか、どっちでもいいが

 青空に白煙を吐きながら白い物体が飛んでいく。北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」と称して「何か」を打ち上げる光景をテレビで観ながら、アフガニスタンの首都カブールで見た「スカッドミサイル」を思い出した。やはり、青空に白煙を吐きながら、頭の上を白い物体が音もなく飛んで行った。カブールの野外市場で取材しているときのことだった。

 そのころのカブール盆地は、ナジブラ共産主義政権がソ連駐留軍に支えられて支配していた。武器のすべてはソ連製だった。スカッドミサイルは大量破壊兵器であり、一発で数百人を殺すことができる。

 ぼくたち特派員は、空路カブールに入ると、ナジブラ政権の動向を取材して原稿を本社に送るのが職務だった。アメリカ、ソ連、フランス、イタリア、スペインなどいろんな国の特派員が、おなじホテルに泊まり、政権の記者会見があると三々五々外務省に行った。

 「今朝、わが軍は反政府勢力に対し攻撃を仕掛け、推定300人の敵を殲滅した」。こういう発表文を報道官が読み上げる。ぼくたちはそれを筆記したりテープレコーダーに録音したりする。ほんとかどうかも確認のしようがない発表をいちおう聞き置いて、急いでホテルに帰り、テレックスの前に座って原稿を打つ。ソ連経由で国際電話がつながることもあるが、たいていは雑音がひどくてよく会話ができず、テレックスで外界と交信するのが一番確実な方法だった。

 ぼくは、記者会見が終わるとチャーターしているタクシーを飛ばし、いの一番にホテルのテレックスの前に陣取り、原稿を送ることにしていた。共産主義政権の常として、嘘や誇張がふくまれているのは承知の上だが、それでもナジブラ政権が公式に何を発表したかはそれなりにニュース価値があった。

 「推定300人の敵を殲滅した」と発表されたとき、ああ、あのスカッドミサイルで反政府ゲリラがやられたんだな、と思った。スカッドミサイルは、1991年の湾岸戦争で一躍名を知られることになったが、ぼくがカブールへくり返し入ったのはそのちょっと前だった。

 青空を飛んでいくスカッドミサイルは、大量破壊兵器という言葉から連想する不気味な感じはまったくなく、市場の人びとも花火見物をするようにぽかんと見上げていた。ただ、それによってナジブラ政権の言う「敵」が一度に大量殺戮されたのかと思うと、やりきれないものを感じた。

 ぼくは、パキスタンの北西部アフガン国境の街ペシャワールを何度も訪れて、そこを後方基地とするアフガン反政府ゲリラたちにもよく取材した。彼らは生まれつきの戦士で、裸足にサンダルでカラシニコフ銃をかついでアフガニスタンの山地を歩き回り、ナジブラ・ソ連軍と戦っていた。彼らは一様に人懐こかった。スカッドミサイルによって、そういう戦士たちが百人単位で殺されるのだ。

 読売新聞によると、北朝鮮は、1970年代、エジプトから旧ソ連製のスカッドミサイルを手に入れて改良し、80年代半ばから、韓国を射程に収めるスカッドB(射程300㎞)とスカッドC(射程500㎞)を実戦配備した。

 93年には、日本本土をほぼ射程に収めるノドン(射程1300㎞)の発射実験に成功した。北朝鮮は短距離弾道弾スカッド約600基、中距離弾道ミサイル・ノドン約200基を保有している。北の独裁者がボタンを押せば、韓国も日本列島も阿鼻叫喚の地獄となる。

 今回、北朝鮮が「大成功した」とする「人工衛星搭載ロケット」、事実上の大陸間弾道ミサイルは、射程1万2000㎞でアメリカ東部のワシントンDCやニューヨークを射程圏内にすると言われる。ただ、まだ核弾頭を搭載する技術には成功しておらず、またミサイルが宇宙空間から大気圏に再突入する際の耐熱技術も未開発とされる。したがって、すぐにもアメリカの心臓部を狙えるわけではないらしい。

 ただ、ぼくには気になる報道があった。今回の打ち上げで、「ミサイルの1段目は分離後に爆発し約270個の破片になった」という情報だ。ミサイルを撃ち落とせる可能性がもっとも高いのは、打ち上げられてから間もないタイミングだとされる。だが、もし、1段目がばらばらだと、熱を感知してミサイルを撃ち落とす迎撃システムの赤外線センサーがうまく機能しない恐れが出て来る。1段目の破片も高熱だから、迎撃ミサイルは弾頭か破片か惑わされることになりはしないか。

 ぼくはカブールへ、いつもニューデリーからの直行便で入った。壮大な盆地の中央にあるカブール空港へ着陸する前、飛行機はらせん状に下降しながら、燃えるマグネシウム弾を撒きちらすのが常だった。地上の反政府ゲリラが、熱追尾式のアメリカ製地対空スティンガーミサイルで狙っており、それを惑わすためだった。だから、カブールへ入るのはいつも命がけだった。

 北朝鮮が1段目を自爆させ破片にして海上に落下させたのは、韓国軍に回収されて構造や機能を分析されるのを防ぐためだという報道が多い。だが、カブールの“故事”とおなじような方法を取り、迎撃を避けるのが主目的ではないだろうか。

 いずれにせよ、北朝鮮は手強い。日本の社民党は「北朝鮮の脅威をいたずらに煽るな」と“平和ぼけ”の声明を出したが、冷静に判断しても暴走する北はじゅうぶんに脅威だ。

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