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’WE DID IT'(俺たち、やったぜ)

. サッカーはやって楽しい。観戦するのも3度のメシとおなじくらい楽しみだ。それが日本代表の国際試合ともなるとなおいい。日本が勝てばさらにうれしい。大逆転勝ちでもしてくれれば、盆と正月がいっしょに来る。

 出雲にUターンして、いまはなき国立競技場や埼玉スタジアム2002などで生観戦することもできなくなった。それでも、テレビ観戦は仕事より優先事項となっている。かみさんも、サッカーの試合日程にあわせて勤務日を決める。職場にはナイショだが。

 U-23アジア選手権決勝戦は、ドイツで言う「クリスマスとイースターがいっしょに来た」試合だった。手倉森ジャパンは立ち上がり悪くはなかったが、韓国は前半10分もしないうちに猛攻撃をしかけてきた。中盤でいわゆるセカンドボールがほとんど取れない。それまでの5試合と比べて、あんなにも走れなかったかなぁ、とまだるっこい思いがする。テレビ画面で観ていると、韓国の選手の数が何人か多いのではないかという錯覚さえする。

 MF中島が「韓国はうまくて、本当に流れに乗れなかった」と率直にふり返り、DF岩波が「想像以上に韓国はうまかった」とのちに認めた。

 前半20分、サイドチェンジから右サイドを破られ、クロスボールへの対応を誤って先制点を献上してしまった。韓国が先行逃げ切りのチームなのに対し、日本は前半を慎重に運んで後半勝負というスタイルで一貫していた。過去5試合とも先制点を取り、優位な試合展開に持ち込めていたが、決勝ではこの選手権で初めて先行されてしまった。

 手倉森監督は、「前半を0ー0でいければ、2ー0で勝てる」と見込んでいたそうだ。そのシナリオは早くも崩れたが、まだ1点なら大けがではない。韓国に押し込まれたこともまだ想定内ではあっただろう。

 後半が開始され、状況はさらに悪化した。日本はひとり交代させて4−4−2から4−3−3へシステム変更した。その直後、日本の左サイドは完全に崩され、センターバックが釣り出され、ゴール正面でどフリーになったFWチン・ソンウにネットを揺らされた。

 手倉森監督は、試合後、采配のミスを認めたそうだ。「2点目を取らせたのは俺が悪かった。本当は5分くらい様子を見てから(選手交代)とも思ったが、キックオフから交代した分だけ重心が後ろに下がってしまった」。ボランチを3枚にして相手の攻勢を防ぐつもりが、後ろ向きな気持ちで再スタートしたことで、相手の勢いをまともに受けてしまった。DF岩波も「正直、パニックになっていた」と認めた。

 この2点目はきついなぁ、とぼくは半分負けを覚悟した。この時点でテレビを消し、寝てしまった人も少なくなかっただろう。でも、サッカーでは「2-0はもろい」とも言われる。テレビ朝日の解説者・松木安太郎さんは「1点取れば、流れは変わりますからッ」と呪文のようにくり返している。

 手倉森監督も奇妙な手ごたえを感じていたという。「あれだけシュートを外してくれると、『こっちに(流れが)来るな』という思いもありながらやっていましたし、負ける気はしなかった」

 ぼくはかみさんに祈りを込めて言った。「韓国の過去の試合をみると、前半に飛ばしすぎて終盤に失速する。きっとそうなるよ」。左SBの山中は、ピッチでそれを感じたそうだ。「こちらがFKを取って早くリスタートしても、対応してこなかったりするようになっていた」。韓国側には体力的に限界が近づいていた。圧倒的な内容で押し込んでいることから、精神的な油断もあったのか。

 後半15分、日本ベンチは予定通り「切り札」を投入した。MF大島に代えてFW浅野を最前線に送り込み、4−4−2にシステムを戻した。韓国の監督は、前日の記者会見で「日本対策はじゅうぶんに研究している」と自信をみせていた。だが、スピードFW浅野に対して韓国は意外にも何の対応もせず、日本の記者団はちょっと驚いたそうだ。「浅野が今大会はまだ点を取っていないということで、日本の快足ストライカーを少々なめていたのかもしれない」と書いた記者もいた。

 右サイドでボールを受けた矢島のスルーパスから飛び出した浅野が、冷静に右足でGKの頭を越して1点をもぎ取った。その1分後、山中のドリブル突破からのクロスに矢島が頭で合わせて、試合は瞬く間に振り出しへもどった。

 さらに、後半36分、カウンターから抜け出した浅野が逆転の3点目を決めた。浮き球のクロスがくるところ、相手DFに体をぶつけてバランスを崩させ、圧倒的な速さで振り切って、今度は左足でゴール右ポスト脇にたたき込んだ。

 浅野ってあんなにうまかったっけ? まさに世界クラスのスピードと決定力でヒーローとなり、「ジャガーポーズ」でベンチ前の仲間たちに突進した。

 サッカーで後半途中の0-2は「野球の9回裏0-5くらいの感じだ」と江川卓さんは『Going』で言った。ピンチはチャンス。圧倒的な劣勢をひっくり返したのは、自分たちを信じる気持の強さがあったからだろう。なんだか、こっちもすごく励まされた。「百折不撓」というわが座右の銘が脳裏に浮かんだ。百回折れてもまだくじけない、という諺だ。

 表彰式が終わり、監督、選手、スタッフは白いTシャツに着替えた。優勝を見越して用意していたのだろう。胸には’WE DID IT'と染め抜かれていた。

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