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フクシマをめぐるやっかいな先入観

 東日本大震災から5年が経つ。廃炉への作業が続く東京電力福島第1原発の敷地内で、コンビニ「ローソン東電福島大型休憩所店」が、2016年3月1日にオープンした。福島第1原発敷地内では原子炉建屋付近を除き、放射線量が大幅に減っていて、普段着で活動できるエリアも増えているという。

 メディアは、「放射線汚染水が流出した」などとの報道をくり返しおこなっていて、福島第1原発にはまだ近づけないようなイメージがある。ぼく自身もそういう誤った印象を抱いていた。これがメディアのもたらす先入観、ステレオタイプの怖さだと改めて知った。

 そういえば米有力紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)も、2015年末、福島の被曝リスクは誇張され過ぎているとした上で、「われわれはどれほど愚かだったのか」と自戒する記事を掲載していた。年間100ミリシーベルト以下では、広島や長崎の原爆の被爆者を対象とした膨大なデータをもってしても、発がんリスクの上昇は認められない。つまり、100ミリシーベルト以下の低線量では、どれだけ被曝しようと、直線的関係は成り立たないとWSJは指摘している。福島の事故以後、「被曝すればするほどリスクが高まる」という言説が流布したが、それは根拠のない風評だったことになる。

 そうした先入観・ステレオタイプについて、週刊新潮は福島県出身の社会学者・開沼博氏(31)のレポートを掲載した。

 まず、 福島県に暮らしていた人のうち、どれくらいの割合の人が震災によって、現在県外で暮らしているか? という問いかけをしている。その答えは「約2.2%」だ。流布しているイメージでは、大震災後、多くの人が県外移住を強いられいまもその多くは慣れない土地で大変な思いをしている。実際には、5年を経て、その数は激減しているのだという。もちろん、県内にいるがまだ地元に帰れる見込みのない人はたくさんいる。

 次の問いかけは、2015年11月現在で福島県の有効求人倍率は、都道府県別で全国第何位か? というものだ。その答えは「4位」だそうだ。つまり雇用の面でも実は大幅に改善され、全国トップクラスに次ぐ状況となっている。

 もう一つの問いかけは、次のようなものだ。3・11後の福島では「中絶や流産が増えた」「離婚率が上がった」「合計特殊出生率が下がった」のうち、どれが正しい? 答えは「出生率のみが正しい」だ。あとの二つはやはり風評にすぎないという。

 一般に抱かれている「福島」のイメージと実際の姿との間には、かなりのギャップがあることがわかる。

 開沼氏は大震災後、福島大学の特任研究員や、復興庁の生活復興プロジェクト委員などを務め、社会学の観点からフィールドワークや統計の分析を続け、福島の動きについて研究してきた。そのなかで「福島の問題はからみにくい」「福島難しい」「福島面倒くさい」といった言葉を耳にした。「善意もあるし、困難な問題を解決してきた実績もある人たちが、福島と付き合うことに高い壁を感じているようです」とレポートで指摘する。

 その理由として、開沼氏は3つのポイントをあげる。福島の「過剰な政治化」「過剰な科学化」「ステレオタイプ&スティグマ化」だ。

 過剰な政治化とは、「原発」「放射線」をめぐるイデオロギーだ。開沼氏は「二項対立化しやすく、違うイデオロギーを持つ人同士の溝を埋めることが困難に見える。『声の大きな人』に絡まれそうだから普通の人は意見を言わなくなる」と述べる。

 不幸にして悲惨な原発事故が起きたあと、「原発は恐い」という意識は日本だけでなく世界的に広がった。人間が扱う以上、絶対に安全とは言えないことが改めてわかった。しかし、5年が経ったいまも原発の問題があまり冷静に語られず、ともすれば極論がまかり通ってしまうのは、誰かがイメージ操作しているからではないか。

 そこで思い出すのが、たとえば朝日新聞の極端な姿勢転換だ。福島の事故以前はどちらかと言えば原発を支持していたのに、事故から2か月後、反原発に舵を切りキャンペーンを張っていまにいたる。「国民世論は“原発が恐い”というムードに傾いた。さあ、その流れに乗れば新聞が売れる」という安易で無責任な判断だったのではないか。

 だが、エネルギー政策は環境への影響、コスト、安全性などを総合的に判断しなければならない。大惨事を生み出しかねない原発がなくてもいいなら、それに超したことはない。だが、たとえば火力発電所はCO2で環境を汚染するし、万一の重大事故の悪影響は、放射線こそ出さないものの、極めて大きいとされる。

 風力発電は、安全だが問題も多い。ぼくが住む出雲市は、再生可能エネルギーで市のすべての電力をほぼまかなえるところまで迫っていて、その点では知られざるエネルギー先進自治体だ。しかし、巨大風車群が並ぶ島根半島の住民は、低周波に悩まされて夜も眠れず影響のないエリアにアパートを借りて夜を過ごしている、と聞いたことがある。

 過剰な科学化とは、放射線をめぐる専門的な議論に一般の人はついていけず、漠然と不安を感じることだ。ステレオタイプ&スティグマ化のスティグマとは、汚名や負の烙印を意味する。つまり、悪いイメージが定着してしまうことだ。

 福島は、アンラッキーにもこの3点に問題が集約される。自戒を込めて「確かな根拠もなく、思い込むな」という言葉の重要性を噛みしめたい。

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