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再生するロシアとでたらめの中国

 「経済指標は捏造できるが、人口学的指標は捏造できない」。フランスの歴史家で人類学者、人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、こう断言している。2015年5月に上梓されベストセラーとなった『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』(文春新書)の第2章「ロシアを見くびってはいけない」で、その理由を詳しく述べている。

 なぜ、この言葉にぼくが注目したか。それは、社会主義の大国である中国と旧ソ連のことを、すぐに連想したからだ。

 トッド氏は「人口学的なデータはきわめて捏造しにくい」とする。そのうち、乳児死亡率(1000人の乳児のうち、1歳未満で死亡する数)は、ある国の現実の社会状態をうかがわせるもっとも重要な指標だそうだ。ケアのシステム、インフラ、母親と子どもに与えられる食物と住居、母親および女性一般の教育水準などを反映する。

 トッド氏は、1976年に『最後の転落』を上梓して、社会主義ソ連の終焉を予見した。それは、乳児死亡率が再上昇していることを、ソ連当局が発表した統計を分析して得た結論だった。この書物が刊行された後、ソ連は統計を発表するのをやめたという。人口学という一見地味な学問も、鋭い学者が駆使すればすごいことがわかるのだ。

 トッド氏は、「経済や会計のデータは易々と捏造できる」とし、まったく当てにならないことを示唆している。

 中国政府は、「2015年のGDPの伸びが6.9%だった」と発表した。日本でも、新聞やテレビはそれをそのまま伝えた。だが、中国経済をウォッチする専門家は誰も信じてはいない。

 その数字の背景はこうだ。2015年3月、日本の国会に当たる年に1度の全国人民代表大会で、李克強首相が「7%前後の成長」を確約してしまった。実際にはそんな成長は達成できなかったが、やむなく国家統計局が「6.9%」という数字を“作った”のだそうだ。

 では、本当の成長率はいくらか。いろいろな見方はあるが、高くて「4%台後半」で、「3%台」という声もある。人によっては、「マイナス成長」と見るケースもある。

 日本の成長率はマイナスだが、中国とはその意味がちがう。日本の完全失業率は3%ちょっととかなり低い。不況がつづき倒産する会社はあるが、暴動に発展したりするケースは皆無と言っていい。

 中国の現実はすさまじい。週刊現代は、2016年2月8日からはじまった春節の大型連休中に起きた倒産ラッシュを報告している。中国南部の江西省にある鉄道用鉱山では、連休中に社長一家が夜逃げし、工員たちが休暇からもどってきたらもう会社はなかった。こういうのを「春節倒産」と呼ぶそうだ。怒った工員たちは鉄パイプなどを振り回し、警備員や警察官の制止を振り切って会社内に押し入った。そして金目のものを根こそぎ奪い取ると、最後は市役所を取り囲んだ。

 遼寧省でも「春節倒産」のラッシュで、失業者たちがデモをしたり浮浪者となってたむろしていたり、不穏な空気が漂っているという。吉林省では、経済開発区のトップがエレベーターに乗ったところを襲われ、メッタ刺しにされて殺害された。そのニュースが伝えられると、ネット上には凶行に賛同する書き込みが相次いだ。<死ね、死ね!><奴隷たちが立ち上がったぞ!>

 中国全土での暴動は年間10万件に達するとの報道もある。中国の人口は日本のざっと10倍強だから、日本で暴動が起きたと仮定すると年間1万件となる。日本は民主主義の国であり、そんな事態になる前に政権は吹っ飛んでいるだろう。

 中国は、共産党による一党独裁の国だからそんなことにはならない。中国の体制を「上半身は社会主義、下半身は資本主義」あるいは「国家資本主義」と呼ぶこともある。たとえば、リニアモーターカーを走らせるにしても、日本なら計画沿線の自治体や住民と交渉して用地買収に巨額の費用と時間をかけなければならないが、国家資本主義なら簡単だ。当局が線を引いたところの住民を、うむを言わせず強制退去させ工事を進めて行けばいい。

 そういうニュースは日本のテレビでも流れるが、退去させられた住民はどこでどうやって暮しているのだろう。そうした民衆のたまりにたまった不満が、暴動となって爆発する。

 中国税関総署は「2016年2月の輸出額は、前年同期比で25.4%減、輸入額は13.8%減だった」と発表した。2015年から大幅にダウンしているから、ほぼ信用できる数字かもしれない。中国経済の退潮はとどまるところを知ず、日系企業などもどんどん撤退している。

 ニューズウィーク日本語版は、こんな記事を伝えた。<3月13日、中国時間の午後5時、中国政府の通信社「新華社」のウェブサイトに「中国最後の指導者、習近平」という報道が現れた。すぐに削除されたが、一部の中文(中国語)メディアがPDFでダウンロード。中文世界に衝撃が走っている>。「最後の」は単なる書き間ちがいか、誰かの意図的なものか。これは、予言となるのだろうか。

 ちなみに、プーチンが支配するロシアの乳児死亡率は、近年、目覚ましく低下しているそうだ。再生しつつあるロシアと崩壊寸前の中国は、あまりに対照的だ。

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