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インド、紙オムツ、爆買い

 ニューデリーで暮しているとき、日本人の特派員仲間は7人いた。そのうちのひとりIさんは、日本へ帰国してしばらく経ったあと、会社を辞めて四国の実家へ帰った。どうしているのかと思ったら、年賀状で「家業を継ぎ、紙オムツなどを作っています」と書いてきた。

 四国でなぜ紙オムツなのか、そっちの方面はよく知らないのでわからないが、どこかの大手メーカーの下請けをしているのだろうか。それにしてもIさんは、家業とはいえ、ぼくの知り合いのなかでも異色の転身をした。

 じつは、ニューデリーと紙オムツは、ぼくたち夫婦にとっては忘れられない記憶がある。息子は、生後半年でインドへやって来た。前任者からの情報で、インドのベビー用品はほとんど使い物にならないから、日本で調達して来たほうがいいということだった。

 インドが経済自由化して「開国」するより前のことだから、ろくな製品はなかった。準備する量は3年分だった。わが夫婦は、赴任のずっと前から物資調達に着手した。まず、日本食で長期保存に耐えるものを確保しなければならない。味噌や醤油は業務用を手に入れた。

 自宅で作れる「ハウス本豆腐」という便利なものがあると聞き、それも買った。いまでも不思議だが、この製品をなぜ日本で売っていたのだろう。日本に住んでいる限りスーパーへ行けば豆腐などいくらでも買える。だから、海外赴任者のために開発したのだろうか。

 食料だけでもすごい量になったが、次に重要なのがベビー用品だった。文字通り乳飲み子を抱えて、スーパーなどを回った。息子はよく飲みよく出すほうだったから、紙オムツは吸収率がいいものを用意する必要があった。しかも、成長に合わせ段階的に大きなものが必要になる。研究の結果、アメリカ製のパンパースが一番合っているとわかった。

 さて、ニューデリーにまずぼくが単身赴任して、3か月遅れでやって来た妻子と暮すようになると、紙オムツは予想を超えてたくさんいった。現地の店でインド製を買ったこともあるが、使い勝手の面でパンパースとは比べものにならない。だから、出張や家族健康診断、旅行でシンガポールへ行ったときに手に入れた。かみさんによると、シンガポールのパンパースは日本で買うよりかなり高かった。それでも、ないわけにはいかないから大量に買って、飛行機の預け入れ荷物として持ち帰るのだった。

 あるとき、シンガポールの先輩特派員がニューデリーへ出張で来ることになった。「お土産は何がいい?」とあらかじめ聞かれたので、ためらわず「パンパースXLを」と頼んだ。空港へ出迎えに行くと、先輩は手に大きなパンパースの袋を持って現れた。

 また、日本から、友だちのルリコさんとマリさんがインド旅行に来たときのことだ。「何を持って行ったらいいですか?」とルリコさんが聞いてくれたので、やはりパンパースを頼んだら、「マリちゃんは花王に勤めているので、メリーズでもいいですか?」。もちろん、メリーズも喜んで使わせてもらった。

 先日、週刊新潮で中国人による爆買いの記事を読んでいたら、その懐かしいメリーズが大人気だという。都内のドラッグストアの男性販売員のこんな話が載っている。「あいかわらずの売れ行きです。販売個数制限をもうけても、まだ需要に供給が追いつきません」。指さす先には「紙オムツ3パックまで」と中国語で書いたポップとスカスカになった棚があったそうだ。

 「中国人観光客のお目当ては日本製の『メリーズ』。みなさん、個数制限ギリギリまで購入していかれます。でも、なかには、もう1回買うために変装して訪れる人もいるみたいですよ」

 じつは、メリーズは中国でもまったく同じ品質のものが生産されているという。それでも、かさばる商品をわざわざ日本で買って中国に持ち帰る。その動機はSNSなどの口コミらしい。当初、「日本から輸入したメリーズがすごい」という評価が拡散し、現地生産がはじまっても、“レジェンド紙オムツ”みたいに日本製が祭り上げられているそうだ。

 まあ、通気性のよさ、柔らかさ、吸収力のよさといった高機能の商品であることはまちがいない。

 紙オムツに限らず、中国人は中国製の商品を鼻から信用していないという社会背景があるだろう。それに、言論統制された国だから、SNSなどの口コミが日本では想像もできないほど発達しているのではないか。

 そう言えば、インドで暮しているときにも、口コミのすごさをよく体験した。いつも暇をもてあますお抱え運転手のヘンリーに聞けば、地域のたいていのことは知っていた。当時は、携帯電話はもちろん庶民には電話もなかったぶんだけ、口コミであっという間に広がるのだった。

 ぼくたちが、いよいよ日本へ帰るとき、処分品をガレージセールで売った。2、3日前、ヘンリーに「口コミでお客さんを集めてくれ」と言ったら、当日、大挙してかなり遠くのひとまでやって来た。

 紙オムツの想い出を書いていて、いまふっと思った。ぼくたち夫婦がシンガポールでやっていたことも、“爆買い”だったなぁ、と。変装する必要まではなかったが。

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