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大統領指名候補フランケンシュタイン

 「トランプは共和党が創造したフランケンシュタインの怪物」。アメリカ新保守主義の代表的論客は、こういう強烈なタイトルの論説を、ワシントン・ポスト紙に寄せた。

 トランプ氏は、共和党の「茶会派」に育てられたとされる。この派は、共和党保守派を支持する人びとの政治運動で、オバマ民主党政権とは逆に「小さな政府」を志向している。不動産王ドナルド・トランプ氏は、大統領選に向けた共和党指名候補争いで、いまやその茶会派から共和党を奪うと警戒されている。

 なぜ、虚言、妄言オンパレードの彼は「トランプ現象」「トランプ劇場」と世界が注目するほど、有権者の支持を集めるのだろうか。

 発言が過激だからこそ人気を博している。「メキシコ国境に壁を築き、費用はメキシコ政府に負担させよ」「当分のあいだ、イスラム教徒のアメリカ訪問を拒否せよ」。他の候補がこんなことを言えば暴言として非難されるが、トランプ氏の場合は、候補討論を生中継するテレビ番組の視聴率を稼ぎ、ネット上でも「面白い」とブームにつながっている。

 テレビ討論会はクイズ番組のようになり、大統領にふさわしい識見よりパフォーマンスが重視されてしまう。政治理念よりイメージの争いになったのだ。その傾向は以前からあったが、トランプ氏の登場でそれが究極まで高まった。

 彼は自著で「少々の誇張はかまわない。非常に効果的な宣伝方法だ」と語っているという。まさに、プロパガンダの申し子のような人物だ。メキシコ国境の壁の話も、実現できないと知りながら「強い指導者」のイメージ作りを狙ったのだろう。ニューヨーク・タイムズ紙は「メディアがトランプ氏を作った」とし、テレビは視聴率優先で「事実や経歴をよく精査しないまま発言を許している」と批判した。

 読売新聞によると、ある著名なアメリカ議会政治の研究者は、ウェブサイトの発展が政治を変容させたとする。「膨大な意見や情報源の喧噪に埋もれる世界では、誰もが自分の声を聞いてもらおうと努力するので、敵対者をののしったり、過激な発言をしたりするのは当たり前になった」

 トランプ氏は、背の低い対立候補を「チビのマルコ」「軽量級」と呼び、また他の候補を「うそつきテッド」と攻めた。相手もおなじような汚い言葉を使って対抗したが、トランプ氏のほうがポイントを稼いでいた。ワシントン・ポスト紙は「アメリカ大統領選史上、もっとも下劣な論戦」と書いた。

 アメリカでも、情報を一方的に伝えるテレビや新聞の影響力は相対的に弱まった。そして、ネットユーザーは自分の好きな情報を追い、嫌いな情報は拒絶する傾向が強い。多くの国民は自ら選んだ情報空間に閉じこもり、その空間を客観的裏づけのない情報が「事実」として拡散する。

 テレビは視聴率を重視し、ネットメディアはアクセス数を重視する。トランプ氏の過激発言は、ライブ番組やネットの世界にフィットし目立つのだ。

 「われわれが攻撃されても日本は何もする必要がないのに、日本が攻撃されればアメリカは全力で防衛しなければいけない。これは極めて一方的な合意だ」と日米安保条約に不満を示した。そして、在日米軍について、「日本が駐留費用の全額を払わないなら撤退する」と語った。

 毎日新聞は社説でこう書いた。「トランプ氏の発言は、米国の国力の低下による内向き志向を反映している。過剰反応すべきではないが、『日米安保ただ乗り論』を公然と語る人物が、大統領指名候補をうかがう時代になったことには注意を払う必要があるだろう」

 社説の締めはこうだ。「日米同盟は重要だ。だが、同盟強化一辺倒では、国際秩序の大きな構造変化に対応できないだろう。日本は思考停止に陥ってはならない。外交と防衛のバランスをとりながら安全保障政策のあり方を点検していく必要がある」

 沖縄問題での報道姿勢をみると、毎日新聞にとって在日米軍の撤退は歓迎すべきことではないのか。いざ、トランプ氏が撤退論を口にすると、「日米同盟は重要だ」とする。その立場と、普天間飛行場の辺野古移設反対論はどう整合性があるのか。日米は軍事同盟であり、集団的自衛権はその絆を固くするもののはずだが、反対論と同盟の重要性はどう整合性を持つのか。

 朝日新聞の社説は、論理破綻が露呈するのを恐れているのか、トランプ氏発言と在日米軍の話については沈黙しているようだ。思考停止しているのは、左派メディアのほうではないか。

 安倍政権は、日米同盟強化一辺倒ではない。朝日や毎日が書かないだけで、「地球儀外交」は国際社会から高く評価されている。そのバランス感覚は、歴代日本政府のなかでも群を抜いている、とぼくは思う。だから、G7外相の広島平和記念公園訪問も実現した。

 トランプ氏が大統領にならなくても、一定数のアメリカ国民が彼の主張を支持した現実は重く残る。アメリカにすがって来た日本は、近い将来、真に「独立」しなければならない時がくるかもしれない。在日米軍なしの祖国防衛をどうするのか。核は持たなくていいのか。それとも、自衛隊解体・非武装中立の夢想に立ち返るのか。

 フランケンシュタインが突きつけた激辛の現実に、日本の各メディアは、どう論陣を張っていくのだろうか。

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