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「臭いものへの蓋」が吹き飛ぶとき

 スマホを開くと、フェイスブックにこんな投稿があった。

 <熊本の地震は人工地震だよ。安倍政権の陰謀で><パナマ文書から国民の目をそらすためと考えるのが自然。国民を顧みないアベ独裁政権打倒!>

 「友達」をあえて制限しているぼくのフェイスブックに表示されるほどだから、この投稿はかなり拡散しているのだろう。

 こんなガセネタがどうして広がっていくのか。ガセと知っていながら、面白がってシェアするのか。それとも本当だと信じているのか。

 こうしたときに問われるのがメディアリテラシーだ。ここでいうメディアとは、報道機関だけでなくフェイスブックなど広く伝達する能力を持つ「媒体」すべてが対象となる。リテラシーとは読み書き能力の意味だ。

 したがって、メディアリテラシーは、情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のことを指す。「情報を評価・識別する能力」とも言える。欧米では、その能力をつけるための教育が行われている国もある。

 わが国でそうした意味でのメディアリテラシーが広まったきっかけは、2002年のサッカーW杯日韓大会だったとされる。マスメディアは、韓国の試合での相次ぐ疑惑判定やスタジアムでの韓国人観客による反日行為をいっさい報道しなかった。一般の日本人サポーターの多くは、日韓友好だけを重視し事実を報じないマスメディアを見限り、自分たちでネット情報などを集めるようになったとされる。ジャーナリスト西村幸祐氏の著書『「反日」の構造』に詳しく書かれている。

 この場合は、メディアリテラシーが良い意味で強化されたが、冒頭に引用したフェイスブックの例などをみると、日本人のメディアリテラシーはまだまだといった感じだ。

 事実を報じないマスメディアの大新聞を見限る、という言葉を連想させるニュースが、2016年4月にもあった。週間ポストが書いた記事だ。見出しはこうだった。<朝日新聞またも危機! 「押し紙問題」の不可解な裏事情>

 公正取引委員会の委員長が、日本記者クラブで会見をした際、朝日記者が「押し紙」について質問したのがきっかけだったという。「新聞社から配達されて、(新聞が)ビニール袋にくるまったまま古紙回収業者が回収していく。私が見聞したところだと、25%から30%くらいが押し紙になっている」。そして、「毎日、読売など他の新聞も同じような問題を抱えているのではないか」と言った。

 押し紙というのは、実際に各戸配達するよりかなり多くの部数を新聞社が販売店に押しつける行為で、もちろん独占禁止法に違反する。新聞業界の最大のタブーとされる。新聞社は水増しした公称部数で広告主から水増し収入が得られるし、販売店も折り込みチラシの部数をかさ上げでき手数料を稼ぐメリットがある。

 いわゆる拡販競争のなかで生まれた悪しき慣習だ。さらに、若い世代を中心に新聞を読まないひとが増え、新聞業界全体が斜陽化している現実を背景に、その水増し率が上がったようだ。週間ポストによると、ホリエモンこと堀江貴文氏は「てかこれ完全に詐欺やん。ぜんぜん問題にならないのはそれだけマスコミの力が強いからだけど弱くなったらヤバイよね」とツイートした。

 販売店は押し紙代を新聞社に払わなければならないが、これまでは折り込みチラシ収入で補って利益も出ていた。しかし、近年は不況やネット広告のあおりで折り込み件数が減り、押し紙代が経営を圧迫するようになって、新聞社に押し紙を断るケースも多い。それに対し、朝日は押し紙1部当たりの補助金を出し、それがいまでは月額1500円にものぼるという。

 公取委は、朝日記者の“公開内部告発”とある販売店からの苦情を受け、朝日に対して口頭で「注意」を行った。これはイエローカードと受けとめられている。公取委は総理大臣直属の機関で、独禁法に違反した事業者に排除措置命令を出し、課徴金を課す強大な権限がある。

 本格的に摘発されたら、朝日の部数は一気に200万部近くが吹っ飛ぶことになる。他紙も他人事ではすまない。加えて、スポンサーから広告費水増し分を過去10年間さかのぼって返還要求されることもあり得る。潰れる新聞社も出て来るかもしれない。

 週刊新潮も、この問題を取り上げた。水増し部数は2割から4割との見方があり、関東のある毎日販売店では約74%が配達されていなかったという極端な例も紹介されている。一般的にはどれほど行われているのだろうか。

 一番の問題は、それを新聞やテレビがまったく報道しないことだ。日本のテレビ局はたいてい新聞社が大株主で、事実上のオーナーが共通する「クロスオーナー制度」の弊害が指摘されて久しい。メディアはことあるごとに「知る権利」という言葉を振りかざすが、自社や系列会社に都合の悪いことは国民に知らせない。

 朝日の押し紙問題もネットを中心に広がった。近いうちに「臭いものにかぶせた蓋」が吹き飛ぶ気配がある。そのきっかけは、やはりネット情報ではないか。そのときこそ、われわれのメディアリテラシーが問われることになる。

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