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量子力学で生命の謎を探る

 ぼくには「三種の神器」がある。仕事で使うのはノート・パソコン、スマホにプリンター兼スキャナーの三つだ。以前はこれにファクスも加わっていたが、いまでは出版社からのゲラ刷りも、ネット経由のPDFで送ってもらう。

 この三つの神器に共通しているのは、いずれも量子力学があってはじめて製品として開発されたことだ。

 量子力学はざっと1世紀前、分子や原子、それよりさらに小さい電子、物質の最小単位とされる素粒子などをあつかう物理学理論として誕生した。

 原子や電子が「粒子」としての特徴を示す一方で「波」としての特徴も示す。光や電波のような電磁波もまた、「波」と「粒子」としての特徴を示す。これらの粒子性と波動性は同時には現れず、粒子的な振る舞いをする場合には波動的な性格を失い、逆に波動的な振る舞いをする場合には粒子的な性格を失う。

 それよりもっと不思議なのは、量子力学が示す自然現象つまり量子現象では、ある対象を観察しているときと観察していないときでは、その対象のあり方が変わってしまうという現実だ。観察という行為そのものが対象に作用してしまうのだ。

 観察とは何かと考えさせられる。それが「意識」を持つ人間のものであるか、「意識」を持たない猫であるか、あるいは無生物であるかによって現象が区別される。つまり、常識では理解しずらいことが起きる。

 ぼくたちの常識とはこうだ。北極星であれ海のイソギンチャクであれ、物理的な存在は、人間が観察しようがしまいが星でありイソギンチャクだ。もし、観察者の「意識」がそれに作用するのだとすれば、物質と意識(ないし心)はある種の相互作用をしていることになる。

 量子力学は、哲学的というか宗教的というか、ぼくたちに「この世界はどうなっているのか」と立ち止まって考えることを要求する。この世は物質と意識が互いに干渉せず別々に存在している、とする考え方を根本から変えてしまう。物質と心を分けて考えなかった古代の素朴な宇宙観にもどっていくのか。

 『量子力学で生命の謎を解く』という本を読んだ。イギリスの理論物理学者と分子生物学者が共著として出版した。一般向けに書かれたものではあるが、細かい活字の分厚い著作で、仕事のあいまあいまに4か月近くかけてゆっくり読んでいった。

 理論物理学としてはアインシュタインの相対性理論があまりにも有名だが、著者ふたりは、それを「古典物理学」と呼んでいる。量子力学からみれば、相対論は「もう古い」ということらしい。

 著者らは、量子世界の「不気味さ」について語る。波動と粒子の二重性が第一で、第二は粒子が壁を通り抜けるということ、第三は粒子が同時に二通りあるいは100通りや100万通りの振る舞いをすることができる「重ね合わせ」と呼ばれる現象だ。この第三の現象では、1個の粒子がふたつの穴を平気で同時に通過したりする。

 さらに興味をそそるのは、量子もつれという現象だ。「それは量子力学のなかでもおそらくもっとも奇妙な性質だ」とされていて、「いったん一緒になった粒子どうしは、互いにどれだけ遠くに引き離されていても、魔法のように瞬時にコミュニケーションを取れる」というのだ。

 高校生のころぼくが読んだ相対論の本では「宇宙でもっとも速いのは光だ」とされていた。だからたとえば、地球と北極星までの距離を表すのに光年という単位を使う。光が到達する時間で距離を測るのだ。

 地球と北極星ほど離れていても瞬時にコミュニケーションを取れるのなら、相対論などぶっ飛ばしてしまう。共著者によると、ブラックホールや時空の湾曲を理論で導いたアインシュタインでさえ、この現象を受け入れようとはせず、「不気味な遠隔作用」と呼んでバカにしたという。

 こういう現象が確認されると、テレパシーなどの超常現象も量子理論で説明できるのではないか、と素人の身では考える。だが、この本の著者らは「突拍子もない主張」だとし「量子もつれを引き合いに出してテレパシーの存在を証明することはできない」と釘を刺す。とはいえ、将来、そっちの研究も進んで、テレパシーのメカニズムが量子理論で解明される日が来ないとはいえない、ともぼくは思う。

 この本では、主に生物学に焦点を合わせて書かれている。特に、生命とはなにかを量子理論によって探求する。「どうやら生命は、一方の足を日常の物体からなる古典的世界に置き、もう一方の足を奇妙で変わった量子の世界の深淵に据えているらしい」「生命は量子の縁(ふち)に生きているのだ」

 生命が誕生したメカニズムが解明できれば、われわれの手で生命を創り出すことができる。そのために、量子理論でアプローチする。量子生物学は急速なスピードで発展し大きな盛り上がりをみせているという。

 だが、本書の結論として、現段階では生命の謎はまだ解かれてはいない。原書のタイトルは”Life on the Edge(縁の上の生命)"となっている。

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