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土用にはドジョウを食べるべし

 ひょうきんな「どじょうすくい踊り」は、安来節に合わせて踊られる。そのドジョウは、意外にも、地元の島根県安来市では食べる習慣がなかったらしい。いまでは全国屈指のドジョウ養殖地となり、市観光協会は「どじょう丑の日キャンペーン」を、2016年8月20日まで、市内の飲食店など8店舗で展開している。

 山陰のローカルテレビ番組で、そのことを知った。世界一の名庭園で知られる足立美術館に隣接し、さぎの湯温泉の旅館街がある。番組が紹介していたのは、そのなかの1軒「竹葉(ちくよう)」だった。

 希望者には、日帰りの「どじょう会席」コースがあり、温泉入浴料、室料、税サービス料込みで4860円だった。

 ドジョウを久しぶりに食べたいな、とさっそくかみさん分をふくめ電話予約した。

 わが家から竹葉までは、カーナビの案内どおりに愛車を走らせ、1時間20分で着いた。旅館に専用駐車場はなく、となりの足立美術館に停めればいいという。徒歩なら美術館まで1分とかからないが、車止めがあり、ぐるっと大回りして所定の場所に停めた。

 30歳代の若い大将が部屋に案内してくれ、すぐに温泉につかった。ちょっと狭いが、いいお湯だった。

 風呂からあがると、部屋のテーブルには、すでに先付けが用意してあった。かみさんが風呂から帰るのを待ち、ぼくは生ビールを注文した。ギンギンに冷やしたジョッキに泡があふれている。一気に喉に流し込んで、まずは先付けのどじょうの佃煮から試した。これは初めて口にしたかもしれない。

 茶碗蒸し、チーズの生ハム巻き、ゴマ豆腐、長イモのしんじょう風など、それぞれにきちんと手がかけられている。料理を運んできた若い仲居さんが、刺身盛り合わせの説明をしてくれた。「ヨコワとカンパチ、タイです」

 ヨコワとは初めて聞く名だが、あとで調べると、クロマグロの若い魚のことで、高知県 や中国地方での呼称だった。「脂が乗っていて美味しいですよぉ」

 ぼくたちが観たテレビ番組では、30歳代と思われる美人女将が出ていた。料理をつぎつぎと運んでくる仲居さんは、入れ替わり立ち替わりで、まだ本命は登場しない。

 3人目に現われた仲居さんに、料理を思いっきりほめた。「ひとつひとつにちゃんと手をかけていて、素晴らしいです」「わぁ~、ありがとうございます。オーナーの板さんに伝えておきます」

 メインの柳川ひとり用鍋に火を点けてくれた。「その卵を溶いて、煮たってきたら回しかけてお食べください」

 鍋ができるまでにとどんな地酒があるか、聞いた。『月山』の辛口と甘口がお勧めだという。辛口を頼んだ。月山は標高197mで、月山富田城は安来市にあった城だ。戦国時代に山陰の覇者・尼子氏が本拠を構え、170年間の尼子氏六代の盛衰の舞台となった。

 そろそろ柳川鍋が煮えて溶き卵を回し入れる。れんげで器にすくって食べると、ゴボウが効いていて懐かしい味がした。かみさんに、東京・浅草の名店『駒形どぜう』の話をしながら、鍋を堪能した。

 ついに美人女将が現われ、どじょうの唐揚げとどじょう汁を持ってきてくれた。これと言って地場産業のなかった安来市で、ドジョウの養殖をはじめたのは10年くらい前だという。休耕田を利用して稚魚を放ち、食べごろになったところで市内外へ出荷する。

 「駒形どぜうにも卸しているんですよ」。泥臭さはまったくなく、骨も柔らかでそのまま食べられる。ドジョウ料理は初体験のかみさんも、「美味しい、美味しい」と箸を盛んに運ぶ。醤油ベースのドジョウ汁も絶品だった。

 「いまウナギは高いから、〈土用にはどじょうを〉で食べにきました」。そう言うと、美人女将は「それ、キャッチコピーとしていただきます!」と明るく笑った。「土用の丑の日にはうなぎを」と定着させたのは、俗に平賀源内だとされる。安来の〈土用にはどじょうを〉も定着すると面白い。

 ドジョウは立秋前の夏の土用から秋にかけてが旬だそうだ。カルシウムやビタミンDが豊富で、ウナギとおなじように夏バテ予防に効く。さぎの湯温泉の旅館街が、どじょう料理で売り出したのは、近年のことだという。

 ローカル紙には「どじょう丑の日キャンペーン」の記事が出ていたが、よくあることで、地元の旅館・飲食店でキャンペーンが徹底されているわけではない。そろいの幟でもこしらえて旅館街にずらっと立てればムードも盛り上がるのだろうが、まだそこまでいっていない。

 「ところで、この数々の料理はきちんと手をかけていますが、ご主人はどこで板前修業されたんですか?」

 「都会の店で修行したわけではなく、地元でベテランの料理人に師事して覚えました」

 ご主人と女将さんは、どじょうすくい踊りを本格的に習い、準師範の資格を持っている。お座敷で披露することもある。師範になると、難しく珍しい「ふたり踊り」ができるそうだ。それはさすがに見たことがない。次回のお楽しみに取っておこう。

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