瀬戸内の旅・完結編 ウサギの島へ渡る
「瀬戸内海には猫の島というのがあったんだっけ」。旅行の計画を立てているとき、かみさんとそんな話になった。「それなら、たしかウサギの島ってのもあるはずよ」
ネットで調べてみると、あった、あった。広島県竹原市忠海の南方の沖合い3kmにある大久野島がそれらしい。面積はわずか0.7平方km、周囲は4.3kmだという。しまなみ海道は通っておらず、忠海からフェリーで島へ渡る。
グーグルマップで島を表示すると、われわれが行く予定の大三島の北となりだ。大三島は愛媛県今治市で、この2島のあいだに県境があることになる。
大久野島のウェブサイトをみたら、大三島の北側にある盛港からもフェリーが出ている。「それなら、大三島からフェリーで大久野島に渡り、帰りは広島側の忠海港へフェリーで行ってそこからわが家へ帰ればいいかな」
瀬戸内への<真珠婚わがままツアー>第3目的は、ウサギの島訪問とし、スケジュールの最後にはめ込んだ。サイトにあるウサギたちの写真をみると、白くて目の赤い日本ウサギは1羽もおらず、わが家のヨーロッパ系ネザーランドドワーフに近い。
<現在、島には約700羽のウサギがいると言われている。すべて日本の侵略的外来種ワースト100にも指定されているアナウサギである>という記述がサイトにあった。
島にはルールがあるという。補助犬以外の犬、猫などのペットの持ち込みは禁止で、餌としてお菓子・パンを与えてはならない。わが家でも長年ウサギを飼っているからよく知っている。ウサギにお菓子やパンを食べさせると腸に詰まったりして大変なことになる。ペットショップではウサギが喜んで食べる甘いお菓子などを売っているが、決して食べさせてはいけない。重症になると開腹の大手術をしなければならず、死ぬこともある。
真珠婚ツアーは、着々と日程をこなし、高速のSAでもらった「しまなみスタンプマップ」というパンフレットをホテルでみているときだった。[休暇村 大久野島]のところを何気なく読んだら、「(P)島内乗り入れ不可」と小さな字で書いてある。たぶん、島内には駐車場がなく車では走行できないという意味らしい。
すぐに休暇村へ電話し、事情を聞いた。「フェリーの桟橋から休暇村など島内施設へ、無料の送迎バスが走っています。大三島から来られるなら、盛港に広い駐車場がありますから、そこへ停めればいいです」
ふぅーっ。危ない、危ない。それを知らずに車をフェリーに乗せたら、ウサギの島に上陸できず、本州の忠海まで行ってしまうところだった。
わがままツアー最終日、大三島にある「鶴姫」伝説で知られる大山祇神社に参拝し、境内の宝物館で義経の鎧、伝弁慶の長刀などを見学し、いざウサギの島へ向かった。フェリーに乗っているのは10分足らずで、すぐに着いた。車を積んでいるひとたちもいたが、彼らは本州へ行くのだろう。
桟橋から島の中心施設である休暇村の建物までも、すぐだった。外は暑いので、室内で休憩してからウサギを探しに屋外へ出た。正面玄関のすぐ近くにシュロの木が密集していて、その下の日陰にウサギが3、4羽いた。幼稚園くらいの女の子が、野菜を乾燥させたウサギ用のおやつを与えている。ウサギたちは、それを美味しそうにもぐもぐ食べる。女の子のお母さんが、その様子を撮影していた。
「おうちでも、ウサギさんを飼ってるの?」女の子に話しかけると、「ううん」と答える。わざわざエサを買って持ってきたんだ。きっと、この子も家に帰ってから「ウサギを飼いたーい」とお母さんにせがむのではないだろうか。
わが家でウサギを飼い始めたのは、娘が小1でドイツのボンに住んでいるときだった。「何か動物が飼いたい!」としつこいので、家族でペットショップへ行き、一番可愛い子ウサギを買った。以来、20年以上、わが家では断続的にウサギを飼っている。いつもネザーランドドワーフを選ぶ。<オランダのこびと>という意味で、値段は張るが、大人になっても毛がふさふさと柔らかく顔も可愛いしあまり大きくならない。
休暇村大久野島の周囲では、たくさんの人たちがウサギを探して散策していた。その光景はポケモンGOを楽しむ姿とそっくりだ。ただし、こちらのほうは拡張現実(AR)ではなく生身のウサギちゃんたち相手のリアルな時間だった。
大久野島は、戦時中、陸軍の毒ガス工場があった。機密にするため、地図から消された島だった過去をもつ。毒ガスの流出を検出したり動物実験したりするためにウサギが飼われていた。
いま島にいるウサギはその末裔だとする説もあるが、それは完全な誤りらしい。戦後、毒ガス関連施設を処理した際、ウサギもすべて殺処分された。いまのウサギは、1971年、地元のある小学校で飼われていた8羽を放したものが野生化して数が増えたとされる。
2011年の干支が卯だったときにメディアで島が紹介され、この年、ある旅行会社がウサギをテーマにした旅行プランを企画した。2013年ごろには、海外のニュースサイトが動画つきで紹介し、ウサギの島は一躍知られることになったという。わずか数年前だ。
ウサギさんたちには、持参のラビットフードをやって遊んでもらった。ウサギには癒しの力がある。でも、島の子たちは、わが愛兎RANAの可愛さにはおよばない。
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