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『とと姉ちゃん』にみるNHKの欺瞞

 連続テレビ小説『とと姉ちゃん』が終わった。実際に発行されていた生活雑誌『暮しの手帖』がモデルとされる。雑誌社を作った3姉妹の長女・常子は、若くして病死したとと(父親)の代わりに妹ふたりを育て、「とと姉ちゃん」と呼ばれていた。

 わが家でも毎朝、予約録画しておいて、たいていはお昼を食べながらみた。最大100万部を突破したあの有名な雑誌が、どんないきさつでどんな人たちによって作られていたか、興味があった。ドラマは基本的にはフィクションだが、敗戦から高度成長期に至る時代の空気というか活気が感じられるのではないかと楽しみながらみていた。

 メイド・イン・ジャパンの製品がまだ粗悪で、公正な商品テストをくり返すエピソードなどは、現実でも『暮しの手帖』の真骨頂だった。天才肌で編集部員にきびしい花山編集長(唐沢寿明さん)とぶつかりながらも、いい雑誌、理想の雑誌を作り上げようとする常子(高畑充希さん)の物語には好感がもてた。

 ドラマの最終盤、花山編集長がひとりで広島へ取材にいく。戦地体験のある自分が、広島の人びとは戦時中、何を考え、何を体験し、どう暮していたか、特に被爆の体験を自分で取材して書き残しておきたいという気持からだった。

 この展開をみて、ぼくは、NHKがどんな結末にしたいのか、ちょっと不審に思った。持病をもつ花山は広島の帰り東京駅で倒れ、常子らは、もうこれ以上、現地取材には行かないで欲しいと望む。そこで、読者から戦時体験の手記を募集して『あなたの暮し』に掲載することになった。

 花山は、読者の体験談を公募する記事を自分で書くことにこだわり、こうつづる。

 「あの戦争は、昭和16年にはじまり20年に終わりました。それは言語に絶する暮らしでした。あのいまわしくてむなしかった戦争のころの暮らしを記憶を私たちは残したいのです。あのころまだ生まれていなかった人たちにも戦争を知ってもらいたくて、貧しい一冊を残したいのです。もう二度と戦争をしない世の中にしていくために。もう二度とだまされないように、ペンをとり私たちのもとへお届けください」

 ぼくの推察通り、NHKは変なほうへ話をゆがめていった。モデルとなった『暮しの手帖』が読者から戦時体験談を募集したのは実際の話だろうが、その公募記事はドラマにあったような内容だったのだろうか。

 ぼくが一番引っかかったのは「もう二度とだまされないように」というくだりだった。誰が誰にだまされたと言うのか。1931年の満州事変から45年の大戦敗戦までを戦時中として、その時代に、誰が誰をだましたと言うのだろうか。

 ここは、日本現代史の核心の部分だ。

 満州事変前後、日本の世論は沸騰していた。マスメディアも大多数の知識人も、一般国民も主戦論を叫んでいた。当時の主導的メディアだったNHKや毎日新聞、朝日新聞はスクープ合戦を展開し、それいけどんどんと国民を煽り、また、政府・軍部を煽った。決して、戦後言われたように、「軍部の圧力」があったからマスメディアは冷静な紙面が作れなかった、というような話ではない。

 毎日新聞が煽りで先行して部数を伸ばし、それに対抗すべく朝日新聞も国民を煽りに煽って毎日を超す部数を獲得し大もうけした。軍部は、むしろメディアに引っ張られて、戦火を拡大した面が否定できない。

 もう一度書く。「もう二度とだまされないように」とは、誰が誰にだまされたと言うのか。『暮しの手帖』に殺到した体験談では、われわれ一般国民は政府や軍部にだまされた、という内容がやはり圧倒的だったのだろうか。

 しかし、それは史実ではない。だました主体があったとすれば、NHKであり毎日新聞、朝日新聞などだった。そして、メディアをそう仕向けた世論があった。

 では、なぜ「国民はだまされた」という発想が戦後の日本に定着したのだろうか。その元凶は、現代史の研究によってはっきりしている。

 日本の敗戦後、占領し日本政府の背後から間接統治したGHQこそ、そういう偽の記憶を日本人の脳裏に刷り込んだ張本人だった。その最初の手段は、日本のすべての新聞にGHQが掲載を命じた『太平洋戦争史』という長大な連載記事だった。1945(昭和20)年、12月8日から10回にわたって連載された。

 日本人はあの大戦を「大東亜戦争」と一貫して呼んでいたが、この新聞強制連載以来、「太平洋戦争」という呼称で統一されいまに至る。いま、ほとんどの日本人は太平洋戦争という呼称に違和感をもたないだろう。連載はそれだけ心理に強く作用した。ぼくは国立国会図書館に保管されている『太平洋戦争史』の書き出しを読み、心底びっくりした。

 「日本の軍国主義者が国民に対して犯した罪は枚挙にいとまがないほどであるが……」

 軍国主義者と国民がはっきり分けて示されている。満州事変以降、国民のほとんど全員が軍国主義者だったという史実は、国民を被害者にする論法で“上書き”されている。しかも、メディアはどっちだったかということも、この大連載ではまったくふれられていない。

 GHQによる現代史の重大な捏造を、NHKは自ら反省することなく、国民的番組『とと姉ちゃん』で、またも追認したのだった。その欺瞞は、若い世代に継承されていく。

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