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2016年11月

米大統領選では、既存メディアも敗北した

 2015年はテロの年だった。2016年はどうなるかと思っていたら、政治激動の年になった。イギリスのEU脱退を決めた国民投票、韓国の朴槿恵大統領をめぐるみっともない国家的スキャンダルときて、最後はアメリカ大統領選でドナルド・トランプ勝利の激震が世界に走った。

 いつ以来かと考えてみたら、まちがいなく1989年以来だろう。あのころ、ぼくはニューデリー特派員として担当エリアの南アジア8か国、さらに、東南アジアへの出張に明け暮れた。硬直していたアフガニスタン情勢が動き出し、それにともなって地域の政情が混迷した。天安門事件があり、ベルリンの壁が崩れた。

 トランプの辛勝を受け、選挙中の「トランプ劇場」から勝利後の「トランプ革命」へと連載タイトルが変遷した新聞もある。

 アメリカの大統領選が、あれほど面白くなるとは思ってもみなかった。開票の日、フジテレビ系の『バイキング』をみながら、かみさんと昼食を食べていた。日本時間の午後1時ごろには当落が判明されると言われていたが、とてもそんな状況ではなかった。NHKに変えると、しかめ面をして開票状況を伝えるだけで、面白くない。お昼の時間帯に大統領選をやっている民放は、どうやらフジだけで、夕方まで観つづける結果になった。

 スタジオのタレントがボケを入れたりそれに突っ込んだりして、視聴者の興味をつないでいく。出色だったのは、NHK出身のジャーナリスト木村太郎氏が、1年前から一貫してトランプ勝利を主張し、どうやらその予測が現実になりそうなことだった。

 今回の大統領選で、アメリカのテレビやタブロイド紙は、トランプをとことん取り上げた。人種差別や女性蔑視の発言を「視聴率が取れればいい」「新聞が売れればいい」と面白おかしく報じた。

 アメリカのマスメディアの8割はリベラルとされる。リベラルとは本来「自由主義的な」という意味で、政治的に穏健な革新を目指す立場をとることを意味する。だが、CNNテレビやニューヨーク・タイムズといった主力メディアは「左翼」と言ったほうが実態に近いのではないか。

 その自称リベラルなマスメディアは、ヒラリーの巨額金銭疑惑には口をぬぐい、そろいもそろってヒラリー優勢を伝えていた。その根拠は各種世論調査のデータだった。

 ぼくも新聞社で世論調査の設計や分析に当たっていたことがあり、ある程度は裏表を知っている。いまの世論調査は統計学によりかかり過ぎていて、回答者がなぜそう答えたのかといった心理学的な分析はほとんどしない。

 現在のアメリカでは、人種差別や女性蔑視を否定するのが“良識”とされている。しかし、日本史も研究する米歴史学者ジェイソン・モーガン氏などによれば、アフリカから大量の黒人を奴隷として連れてきたのも、アメリカン・インディアンを千万人単位で虐殺したのも新大陸へやってきた白人だった。その血まみれの歴史は人種差別どころの話ではない。そして、いまも人種差別は厳然としてある。

 また、経済学者の高橋洋一氏はこう書いている。「ちょっといいにくいが、筆者としてはクリントン氏が女性であったことも(負けた)一因だと思っている。アメリカで数年も暮らした経験があれば、建前は自由平等であるが、実は偏見に満ちた差別社会であることを体感しているはずだ。筆者のある友人が、こっそり本音を言ってくれた。(大統領には)黒人(オバマ)だけでいいだろ、女性は勘弁して欲しい、と」

 トランプの女性蔑視を「ある程度問題」と考える人の75%が、トランプに一票を入れたそうだ。自称リベラル・メディアのきれい事とは別に、有権者の多くは本音で投票した。こういう本音は世論調査データには表れない。

 左傾化したアメリカの大半のマスメディアは、反トランプで足並みをそろえていた。有力100紙のうち57紙がヒラリー支持を打ち出し、トランプ支持はわずか2紙だった。

 ニューヨーク・タイムズの発行人、アーサー・サルツバーガー会長は、今後、トランプを「公正に」かつ「偏向せずに」報道することを約束した。つまり、敗北宣言だ。

 トランプ陣営は、既存のメディアに対抗しネット戦略に訴えた。東大教授でアメリカ研究者の矢口祐人氏は、こう述べている。

 「どこまで意識的にやっていたかはわかりませんが、トランプ支持者にとっては、インテリが読むニューヨーク・タイムズの何ページにもわたる検証記事より、彼のSNSでの発信のほうが圧倒的に読まれている。そして、強く突き刺さり、シェアもされていく」

 トランプ自身、当選後、あるテレビでこう自慢げに語った。ソーシャルメディアは「最高のコミュニケーション手段」であり、「フォロワーは2800万人に上り、このインタビューの前日にも新たに10万人増えた」

 既存のメディアとネットメディアの対決で、後者が勝ったとも言える。

 実は、朴槿恵大統領の絡むスキャンダルを、韓国の既存メディア関係者は知っていたとされる。そのなかで醜聞をスクープしたのは、新興メディアのケーブルテレビJTBCだった。既存の政治・エスタブリッシュメントの失墜と既存メディアの失墜が重なるのは、偶然ではない。

 わが国でも、近く、おなじことが起きるだろう。

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あの韓国メディアが、手のひらを返しはじめた

 NHKのBS1で、サッカー皇后杯3回戦のAC長野パルセイロ(なでしこリーグ1部)と日体大女子サッカー部(同2部)の試合を中継していた。かみさんは長野市の生まれ育ちで、長野パルセイロの男女チームを応援している。

 好ゲームで延長戦の末、長野が2:1で逆転勝ちをした。かみさんと観ていて、ほんとに面白かった。日本の女子サッカーは、底辺が広がった上にここまでレベルも高くなったのかと感心した。

 そうすると、どうしても、お隣韓国のことを思い出してしまう。かの国では、スポーツの裾野を広げようという発想も政策もなく、小学生で運動神経がいい子だけを選んで、ひとつのスポーツに集中するコースを歩ませる。日本には全国4000校以上に野球部があるが、韓国では50数校しかない。それでも、WBCなどでは強いものの、大半の子どもたちは、スポーツの楽しさや青春を賭けて勝負に挑む〈汗と涙の体験〉も知らないまま、大人になるわけだ。韓国女子サッカーの事情もだいたいおなじだろう。

 スポーツエリートとしての道を歩み、世界で活躍できればいい。だが、怪我などでスポーツを断念するしかなくなった若者は、一般社会で生きて行ける学業や常識に欠け、一生を棒に振ることになると、ある有名バレーボール選手が言っていた。

 この一点集中方式は、スポーツにかぎらない。政治でも大統領に強大な権力が集中している。その権力が国民のため公平に行使されていればいいが、そうではなくなったときがもろい。  いま、朴槿恵大統領の親友とされる女性が国政に介入し、さまざまな利権を漁っていた疑惑が持ち上がり、大騒ぎになっている。一点集中方式の弱点が、最悪の形で出てしまった。

 さらに、韓国人の自信とプライドをずたずたにする不祥事も起きた。日本のトヨタにも匹敵する韓国経済界の雄・サムスン電子が、考えられないほどの窮地におちいっている。まず、新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」の発火・爆発トラブルが問題となり、回収と発売停止を余儀なくされた。

 さらに、アメリカで販売している洗濯機の一部が、洗濯中に爆発してふたが吹き飛びけがをするおそれがあるとして、リコールすると発表した。約730件のトラブルが報告され、9人があごなどにけがをしたという。リコールの対象となるのは、2011年3月以降に製造された34のモデルの洗濯機で、およそ280万台にのぼるという。

 現代自動車の業績もひどいとされる。政治も経済もがたがたの韓国で、いま人びとは何を考えているだろうかと思っていたら、産経新聞電子版が興味深い記事を載せていた。韓国メディアが、安倍晋三内閣の「アベノミクス」を称賛しはじめたというのだ。

 韓国のメディアは、これまで首相を「タカ派」と呼ぶのはまだいいとして、「極右」「軍国主義者」などとさんざんののしってきた。  ところが、評価を一変させ、返す刀で「長引く不況から抜け出せない自国の経済政策に批判の矛先を向けている」というのだ。

 中央日報日本語版コラムのタイトルはズバリこうだった。

 「安倍首相の経済リーダーシップがうらやましい」

 日本語版は、韓国語版から日本に関係のある記事をピックアップし翻訳したものだ。

 反日で見栄っぱりの韓国人ジャーナリストが、ここまで率直に日本の保守政治家を称賛した例を、ぼくは知らない。

 コラムは第二次安倍内閣が実施した金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢による経済政策について、「デフレからは抜け出せていない」としながらも、「アベノミクスがなければ日本経済の沈滞はさらに深刻だっただろう」と推測する。そして「安倍首相の指揮の下、日本経済はあちこちで閉塞感が消え、活力を取り戻している」とした。

 さらに、安倍政権が進める農業改革、外国人労働者受け入れ策、子育て支援を中心とした少子化対策、インバウンド消費拡大を狙う外国人旅行者受け入れ策などを積極的に評価し、一方で、ロシアとの北方領土返還交渉にも触れ、「日露の経済協力が進めば、日本企業は新たな投資先を開拓できる」と分析した。

 朝鮮日報日本語版も「赤信号の韓国経済、政府は非常対策委を設置せよ」と題した社説で、韓国経済は危機的な状況にあるとした上で、「日本は20年間の長期不況の泥沼を脱し、活力を取り戻した。これも安倍首相の強く一貫したリーダーシップのおかげだ」と指摘した。  朝鮮日報は、別の日にも、「経済と社会の活力は、わずか数年で韓国が日本に逆転された。韓国に最も必要とされているのは、まさにこうしたリーダーシップだ」と書いた。

 ついこのあいだまで、日米を無視し中国にすり寄っていたのは何だったのか。ここまで手のひら返しをされると、あきれるほかはない。

 反安倍の朝日新聞は、こういう記事を絶対に載せない。いかに安倍首相が内外で高く評価されているのか、なぜ内閣支持率が6割を超すほど高いのか、朝日しか読まない読者は決してわからないだろう。

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