左利きでも大和撫子か
♪わたしのわたしの彼は 左きき♪ と歌っていたのは、麻丘めぐみさんだったか。調べると、1973年のヒットソングだというから、ずいぶん時間が流れた。
そのころ、おなじクラブで親友だったNが左利きで、ギターの弦もふつうとは逆に張って、ぼくといっしょにフォークソングを弾いて歌ったものだった。左利きのギタリストなんて身近にいなくて、なんだか新鮮だった。
でも、女性の場合はやっぱり右利きのほうに好感がもてる。和服を着て左手にお箸を持って懐石を食べている姿などをみると、心が萎えてしまう。左でお茶を点てる人なんているだろうか。やはり、「和」は右利きの文化だ。
いつもはヌードグラビアなどが載っている週間ポストの巻頭に、「左利きはつらいよ」という特集があった。左利きは、全人口の1割強とされていると知った。ここで言う全人口は、日本のことだろう。
欧米では左利きの人が、日本よりかなり多いことを経験としてぼくは知っている。それこそ文化の違いで、ナイフを右手に持ってステーキを食べようが、コーヒーカップを左手で持とうが、見ていてそんなに違和感はない。
さて、記事には、左利きでつらい点が列挙されている。
〈英語の授業で手が真っ黒になる〉
これは、万国共通だ。欧米でも、左利きの人は横文字を書きずらそうに書いている。最近のインクを最小限に使うボールペンなら、左手で書いても真っ黒になることはそうないだろう。ところが、欧米では、小切手や契約書のサインは万年筆で書くのが正式とされるから、どうしても手は汚れる。いまでは、インクがにじまない万年筆なるものがあるのかもしれないが。
〈ゴルフの打ちっ放しが気まずい〉
これはわかるなぁ。ゴルフ練習場では、たいがい、左用の打席は一番右端にあることが多い。そこで、さてクラブを構えると、目の前の人はこちらに向かって打っている。どうしても目が合ってしまうのだ。ぼくも、一度だけそういう経験をしたことがある。お互いに集中できなくなって、フォームもぐちゃぐちゃ、ボールは左へ右へとなりかねない。
〈ボウリングで指が痛くなる〉
これは初めて知った。貸しボールには左用はあまりないのだろうか。右利き用だと中指がきつくて指が痛くなるそうだ。逆に薬指はブカブカで、とてもいいスコアは期待できそうにない。そういう人はマイボールを持つしかないだろう。
〈パソコンを右利きに使われると「マウスがない!」〉
左利き用のパソコンというのはあるのだろうか。キーボードは両手で打つから慣れるだろうが、マウスの接続コネクタは右側についているのしか見たことがない。もっとも、ぼくがいま使っているワイヤレスのマウスなら左でも使えるだろう。ワイヤレスを買ったのは、わが家に出没するマウス(ネズミ)にケーブルをかじられたからだったが。
〈銀行・役所の「紐付きペン立て」は天敵〉
これは左利きじゃないと絶対にわからない問題だろう。どんなに紐を引っ張っても左には届かない。でも、フジテレビ系『クイズやさしいね』じゃないが、いまどき、左手でも書ける紐付きペンはありそうな気がする。
さて、「左利きで苦労したことはありますか?」という100人アンケートに64%が「はい」と答えている。これは意外に少ない数字かもしれない。「日本語の『はらい』や『はね』は右利き前提なので習字の授業は苦労した」(32歳男性)。「会社の電話が左側に置いてあるため左手でメモしにくい」(23歳女性)
欧米より日本のほうが左利きが少ないのは、衣食住をはじめ生活文化がすべて右利き前提だから当然かも知れない。
そう言えば、ぼくのおばあちゃんは、左利きを直す名人だった。いちどだけ、それに立ち会ったことがある。近所のおばあさんに、「孫を直してくれ」と頼まれたおばあちゃんは、その子をわが家に呼んで仏壇の前に座らせた。そこに料理のお膳を運んできて「さあ、右手でゆっくり食べてごらん」と言った。
その子は、慣れない右手にお箸を持ちごちそうを食べはじめ、ずいぶん時間はかかったが、完食した。「仏さんの前で食べられたから、もうこれからは右手が使えるからね」。おばあちゃんは、きっと暗示をかけたのだろう。後日、近所のおばあさんは「左利きが直った」とお礼にきた。
ぼくの息子も、初めは左手でものを食べ出した。かみさんが、そっと子ども用フォークを右手に持たせて食べさせるようにすると、自然に右手で食べるようになった。でも、サッカーをするときは左足が利き足だ。スポーツはそれでいい。物心がついて間もないころなら、左から右へ修正するのはそうむずかしくないようだ。
実は、かみさんも本来は左利きらしい。財布を右手に持ち左手でお金を払う。もし、かみさんが食事やペンも左手だったら、ぼくは結婚していなかったかもしれない。大和撫子の必要条件は右利きだ、という独断と偏見を持っている。
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